一般社団法人 コ・イノベーション研究所

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by 橋本 大佑(はしもと だいすけ)

芸能事務所の性加害問題について

 

無意識下で渇望している愛情を与えてくれたと被害者に錯覚させるおぞましいシステム 

 
今日(10月2日)記者会見があったようですが、被害者とされる方々の反応やコメントを注意して見ています。リンク先の記事では既に478人の方々が被害の申告をしているとありましたが、本当に21世紀の日本における最大の人権問題だと感じます。
 
この件について被害者のコメントを注意してみていると言うのは、表に顔を出して被害者であることや思い出したくもない被害の実態を勇気とリスクを持って告発している方(彼らには尊敬しかありません)から、加害者に対して否定的な意見が聞かれず、逆に感謝等を伝えるケースが多いということです。この状況を「グルーミング」や「ストックホルム症候群」という言葉を用いて論じる記事も結構ありますね。
グルーミングについてはこの問題を報じた英BBCのニュースで使われています。
 
(外部リンク)
BBCニュース
グルーミングとは……性的被害専門のセラピストに聞く ジャニーズ事務所取材のBBC記者
https://www.bbc.com/japanese/video-65048474 
 
一部記事を引用します。
 
「グルーミング」とはこの場合、「わいせつ目的で相手を手なずける、懐柔行為」を意味する。
「性的虐待では、特別な絆が生まれることがある。それがグルーミングです。そうしたものが、性的トラウマをとても複雑なものにしている」(引用ここまで)

 
グルーミングではかなり計画性が必要となります。最初の段階として、対象を選び、欲望を満たし、親から孤立させます。対象を選ぶというのは性加害ができそうな子を選ぶということです。行為が可能かということよりも、実際に加害をした時にそれを公にしない子ということです。
障害者スポーツの現場においても、芸能界と同じような昔の言い方ですが「ステージママ」のような親御さんを見ることがよくあります。ステージママと言うと母親が思い浮かびますが、「ステージパパ」という言葉もあり、別に母親だけが対象ではありません。定義はWikipediaから引用します。
 
「ステージママとは、子役やタレント、演奏家などとして活動する子供の母親のことである。この言葉は、自分の子供を特別扱いするよう周囲に強要したり、自分の夢を託すために子供に過度のプレッシャーをかけていたりすることを示唆するような、ネガティブな意味合いで使用されることもある。」(引用ここまで)
 
 
障害は本人だけでなく、家族も当事者です。障害を受容するには大変な労力が伴います。それができてない人の中には、無意識に子の障害を価値化しようとする人がいます。「うちの子が障害を持って生まれてきたことには意味があるはずだ」ということで、子の意向や障害状況は横においてトップレベルスポーツへの門戸を叩きます。この状況下で「僕、私はパラリンピアンになりたい」という子の夢は、無意識に感じている親の期待に応えようとする子の必死の叫びに聞こえることがあります。
 
 
ただ障害の有無を問わずプロスポーツ選手になりたいという男の子は多いですし、周囲の大人はそれは難しい夢だと知っても否定はしません。障害があろうとなかろうと本人が夢を目指して一生懸命進むうちは伴走するべきと思います。
問題はその夢が本当に本人が心から願っているか無意識の親の願いを自分の夢だと錯覚しているかです。ただ親も含めて現実を一つずつ受け入れていくことが重要で、「君の障害だとこの種目は無理だよ」とか「国際大会は難しいね」みたいなことは言ってはいけないと思いますし、努力したり、挫折したりした経験が障害受容につながるので、生きていくのに必要なステップとも感じます(ただ変な宗教に入ろうとしたりすれば、それは全力で止めます)。
 
 
少し話がそれましたが、特に小中学校からアイドルになるために芸能事務所に参加する方の家族にも、親が同様の問題(自分の人生でできなかったことを子の意志とは関係なく強要する)を抱えるケースが多いのではと推察します。
この場合、子は親に本人の人格を認めてもらっていない(表層的な容姿に価値付けしていることも踏まえて)ため、本質的に愛情に飢えている可能性が高いです。
 
 
この性加害問題では、被害者やデビューしているタレントが加害者を父と表現することが多いです。ですので、親の愛情を渇望している子に対して加害者がまず父親としての信頼関係を作ろうとしていたと考えると加害者の周到さが見えてきて一気に事件の闇が深くなります。
 

つまり被害者にとって加害者は、芸能界で成功する道筋を立ててくれる特別な人というだけではなく、渇望していたけど得られなかった親からの愛情に代替するものを与えてくれた人であるわけです。恐らく加害者は被害を受けた少年の様子から深層意識にある渇望を感じ取っていたのではと推察します。酷い話です。
ちょっと怖い話ですが、親の愛情を渇望している人へ敏感なセンサーを持つ人とは、自身も親の愛情を十分に受けられなかった人だったりします。実際にこの問題を論じた記事の中には、加害者が性加害を始めたきっかけは自らの性被害体験だったのではというものもありました。
もちろん加害をした方は自身のそんな経験を公表はしてないので真相はもちろんわかりませんが、これだけの性加害事件を起こしたモンスターを作った事件があったかもしれない。そしてそれは半世紀以上前のこと、と考えるとこの問題の根深さに寒気がします。
 

さて、グルーミングの段階ですが、選定し、信頼関係を作った後は孤立させます。これはドメスティック・バイオレンス(DV)の夫婦が説明しやすい事例と思います。配偶者からDVを受けている方の中には加害者を思いやる言葉が聞かれることがあります。「暴力は奮うけど優しいところ・いいところもある」という感じです。これも絶対的な愛情(あなたがいい人であろうとそうでなかろうと、優秀であろうとそうでなかろうと私の大事な人ですよ、という絶対的に自分を認めてくれるような愛情です)を受けた経験がない人の共依存の一つの形態ではあると思いますが、このDVのケースでは加害者が被害者の行動を縛ることで正常な判断ができないようにします。被害者が実家の家族や友人と会うと、自らがおかれている環境の異常さに気づいてしまうからです。
今回の問題では「合宿所」という言葉をよく聞きます。つまり、多くの未成年を合宿所に隔離することで親から孤立させています。
  
 
正直24時間一緒にいる家族と、限られた時間で接する他者では、後者の方がよい印象は与えやすいですよね。接している短時間だけよい人を演じればよいので。
短時間の経験を通して無償の愛情を与えられたと錯覚したとしても、自宅に帰るとその魔法は解けてしまう確率が上がります。実際に接してみて親の愛情を再確認することもあると思いますし、自宅の安心感は錯覚をリセットするのにも有効でしょう。友人と交流するのも自分の感じている感覚を考え直す機会になるかもしれません。だからこそ、親から隔離し、孤立させる必要があります。
こういう風に考えると、どこまで加害者が意図的だったかはわかりませんが、性加害を行うためにいかにおぞましいシステムが構築されていたかということを寒気をもって感じます。
またいろいろと情報を見ながら、共依存やグルーミングの観点からまとめてみようと思います。 
 

(外部リンク)
スポニチ Sponichi Annex
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https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2023/10/02/kiji/20231002s00041000469000c.html

この記事を書いた人

橋本 大佑(はしもと だいすけ)
筑波大学で障害児教育を学んだ後、渡独して現地日系企業(THK株式会社)に勤めながら障害者スポーツを学ぶ。2009年に帰国し、障害者の社会参加を促進するためのスポーツを活用した事業を実施。2016年より現職。国内外で共生社会や障害者スポーツ指導者養成に関わる講習を行う。また共生社会の実現に向けて企業を対象としたセミナーやコンサルタントも行う。
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