一般社団法人 コ・イノベーション研究所

各種お問い合わせはこちらから

お問い合わせ お問い合わせ
お問い合わせ

by 橋本 大佑(はしもと だいすけ)

芸能人の「誰かに勇気を与えられる問題」を考えてみる

 

自分が頑張ることで誰かに勇気を与えられる問題を考えてみる

 
歌手の和田アキ子さんが膝関節の手術をしたそうで、そのリハビリの様子を公開しました。
公開の理由として「ちょっとでも見てる人に、勇気と元気を与えられたら良いな」とコメントをしています。
 

(外部リンク)
TBS NEWS DIG Powered by JNN
和田アキ子さん【ヒザ関節手術・リハビリ姿】を公開 「ちょっとでも見てる人に、勇気と元気を与えられたら良いな」
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/727488
 

ちょっと意地悪な見方かもしれませんが、この発言は「障害のある自分が頑張る姿を見てもらうことで同じ障害のある人に勇気を与えたい・夢をもってもらいたい」「自分が障害を受傷したことには価値・意味がある」というよく聞く言葉と、僕のなかではとても似ています。
 
 
和田さんが心からそう思っているかというよりは、膝の手術をするにあたっていろんな人から説得されたり、勧められたりするなかで「勇気を与える」というのが一番手術への意味付けができた言葉だったのかなと推察したりします。
芸能の業界にいる人が表面的に発している言葉は別にその人の本音ではないとは思うので、こういう言葉を発する和田さんをプロデュースした人がいるのかなとも感じます。
 
 
さて、勇気を与えると言えばアドラー心理学が思い浮かびますが、アドラー心理学では縦ではなく、横の関係を作ることが重要とされています。
縦の関係は「他人を見下したり、服従する関係」で、横の関係は「他人と対等に向き合う関係」です。
縦の関係では、相手を自分の上か下か判断し、自分とは差別して態度を変えます。
この和田さんの発言や、つい先日放送された「24時間テレビ」にある「他者を勇気づける」という思想には明確な上下関係があります。
 
 
和田さんの件であれば「こんなにすごい和田さん(私)が頑張ってる」「こんなに努力しなそうな和田さん(私)が頑張ってる」というのが発信者や受け手の意識の根底にあると思います。縦の関係です。
同様に障害のある人が言う「自分が頑張ることで…」という発言にも「障害のある大変な(かわいそうな・不幸な)自分が頑張っているのだからみんなも頑張ろう」と言うような意識があります。
もう少し言うと、ちょっと厳しい言い方ですが、障害に対するスティグマや、弱者(価値の基準をいつも外側に求めてしまう人)のルサンチマンが見えます。
 
 
だから、こういった発言を見ると、この能力主義の社会の中で障害のある状態で生きていくことはそれだけ苦しいことなのだろうと考えるようにしています。ちゃんと向き合う作業をしている人はそれだけで強者と思います。
僕個人としては自分が当たり前にやっていることを「大変だ」と言われるのはとても傷つきますし、「頑張ってるから感動する」と言われれば馬鹿にされているように感じます。
このニュースを見ても頑張ろうとは思いませんが、70歳を過ぎて弱肉強食の芸能界で本職の歌手としても活躍する和田さんは人一倍努力家とは思いますので元気に復帰できればいいなと思います。
 

 

この記事を書いた人

橋本 大佑(はしもと だいすけ)
筑波大学で障害児教育を学んだ後、渡独して現地日系企業(THK株式会社)に勤めながら障害者スポーツを学ぶ。2009年に帰国し、障害者の社会参加を促進するためのスポーツを活用した事業を実施。2016年より現職。国内外で共生社会や障害者スポーツ指導者養成に関わる講習を行う。また共生社会の実現に向けて企業を対象としたセミナーやコンサルタントも行う。
戻る