一般社団法人 コ・イノベーション研究所

各種お問い合わせはこちらから

お問い合わせ お問い合わせ
お問い合わせ

by 橋本 大佑(はしもと だいすけ)

小説家・市川沙央さんのインタビュー記事を読んで

 

共感するところが大きいインタビューです

 
 
先日、小説『ハンチバック』で芥川賞を受賞した市川沙央さんのインタビュー記事を紹介します。
 

タイトルは刺激的な内容になってますが、全文を読んでみると、穏やかではありますが所々にハッとさせられる内容で、限られた言葉の中でも行間を読ませるのは文章のプロの技だなと感じます。僕は行間を埋めて解説するので、こういう余白のある言い回しは苦手で、できる人は憧れます。
 

(外部リンク)
Business Insider Japan
「この社会に障害者はいないことになっている」芥川賞・市川沙央が語った10の言葉
https://www.businessinsider.jp/post-275149

 
以下、インタビュー記事からの引用です。
 
 
『端的に言って、日本では「人権」がいまだ正確に理解されていないという現実があるように思います。「人権」は思いやりで与えられるものでもなければ、義務と引き換えのものでもありませんが、日本は一向にそのあたりの認識がふわふわしたままです。』
 
 
個人的に好きなのは以下の部分です。
 
 
『一人の人間の中の複雑な機微を書くのが小説だと思っています。誰しも人間性の一線を持っていると信じています。』
 
 
こういう文学的な考える余白を残して短い言葉で言い切れる人はかなり憧れます。そんな素敵な知り合いもいるのですが最近全然連絡を取ってないことを思い出しました。これを機に連絡してみようかなと思いました。
それはさておき、このインタビューの中で一番印象に残ったメッセージは以下の部分です。
 
 
『どの国でも権利の獲得は当事者の運動の成果として進んでいくものです。その意味では日本の当事者は大人しすぎるのかもしれません。』
 
 
言葉が少ないからこそ、誤解を生む表現にも見えます。これまでの日本の障害者の自立生活運動は不十分だったと捉えることもできます。でも、きっと市川さんは本当はこれまでに先人が積み上げてきた運動が尊いもので、その成果についても認められているのだと思います。
 
僕は障害者スポーツの講習をやる時にいつも同じような内容を伝えるようにしています。それは「この業界には圧倒的に人が足りてない」ということです。ただし、現在の障害者スポーツの状況が先人たちが一つ一つの活動をレンガブロックのように積み上げてきた結果であり、その地道な活動がいかに尊いかということも伝えます。
 
しかし、残念ながら障害者スポーツの状況は理想的な状況にはまだまだ達していません。僕の言う理想的な状況とは、障害のある人が、その種別や程度を問わず、スポーツをしたいと思い立った時に、障害のない人と比較して同程度のコスト(お金、時間、労力など)でスポーツが始められる状況です。
 
これは残念ながら僕も含めて障害者スポーツに携わった人間が多くの活動を積み上げてきたにもかかわらず、実現できていません。僕はこの実現のためには多様な関係者がより多く障害者スポーツに様々な知見やノウハウを持って関わることが必要だと考えています。だからこそ、障害者スポーツ指導者の講習も、興味・感心を持った多様な人が参加する初級講習が一番大切と考えていて、仕事にあまり上下はつけないのですが、間違いなく一番気合いを入れて取り組んでいます。
 
話が脱線しましたが、先人を敬っていたとしても、勇気を持って『現状は十分でない』という必要があるときがありますし、僕の場合は相応の覚悟を持ってその言葉を発します。つまり、言いたいことはこういう叩かれるかもしれない発言を覚悟を持って全国紙のインタビューで言える市川さんは格好いいなということです。

この記事を書いた人

橋本 大佑(はしもと だいすけ)
筑波大学で障害児教育を学んだ後、渡独して現地日系企業(THK株式会社)に勤めながら障害者スポーツを学ぶ。2009年に帰国し、障害者の社会参加を促進するためのスポーツを活用した事業を実施。2016年より現職。国内外で共生社会や障害者スポーツ指導者養成に関わる講習を行う。また共生社会の実現に向けて企業を対象としたセミナーやコンサルタントも行う。
戻る