一般社団法人 コ・イノベーション研究所

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by 橋本 大佑(はしもと だいすけ)

公的な場においての障害の特性について思うこと

障害の特性が活かされるのは公的な場においてというのが前提です

産経新聞の記事では、発達障害のある社員の特性を活かした事例が紹介されています。

例えば、プレス工場など大きな音生じる職場では、聴覚障害者は騒音へのストレスなく、しかも手話で離れていてもコミュニケーションができるため、有用な人材であるかもしれません。

(外部リンク)
発達障害による独創性や集中力を生かす「ニューロダイバーシティ」 眠れる人材活躍へ
https://www.sankei.com/article/20230811-3SIDKDLHVRPABIFXRLIWAKFXWA/?fbclid=IwAR0ng3XXEJfBzMJ6x0NfAUmvRmugFI9qHfNAoMcJ7Xn7iGt8xQzaRQ9-Ol0_aem_AUKtxz-kNNivIGOb7yMmT1t2-FigLF_SOUngvfeT5Y2ZOL2j5N8l8KOhF4hJg8a5IVI

発達障害で言えば、空気を読めないから社内のスケジュール調整役を務めることで業務効率が上がったというような事例も聞いたことがあります。

このように、一般的には弱みとされる障害が特定の条件下では他者にはない強みとなる事例は多く知られています。

僕はADHDですがいわゆる多動の傾向はないのですが、頭の中はぐちゃぐちゃで思考があちらこちらに行くので多動だと自覚しています。頭の中に様々な事象が整然と区分けされていると、ある情報は特定の範囲の情報としか結び付きにくい(バイアス)ですが、ぐちゃぐちゃに情報が散らばっていることで、一般的には結び付きにくい複数の情報が結び付きやすいという特性があると感じています。

頭の中にある異なる情報の間にシナプスが繋がることをひらめきと言います。そのため、アイデアを思い付きやすかったり、雑多な情報に共通項を見つけてストーリーを作るというのは、ADHDの特性として仕事に役立っていると言えます。

こういった話題は結構メディアでも取り上げられるとですが、「障害は個性」とか「弱みを強みに」みたいな論調になりがちです。この背景には「障害のない人よりも能力が低いのだから、努力して社会に価値提供しなさい」というエイブリズムの思想があります。

正直ADHDの特性によって得られたことよりも、苦しんだことの方が圧倒的に多いため、表面上できていることを元にそれだけを評価されると悲しい気持ちになります。

今回の記事について思うこと

今回の記事でも、発達障害の社員に対してコミュニケーション力は求めていない。
求めているのは技術力だというコメントがあります
が、この記事を読んだ当事者はきっとこれまでにコミュニケーション力がないことで痛めてきた心がまた深く痛んでいるのではないかと考えてしまいます。

コミュニケーション力がないことでたくさん人間関係でつまづき、都度自己評価を下げてきたはずで、今回はそれを公に晒された記事の中で明言されているので、心痛察するに余りあります。人間の尊厳を貶めるものと感じます。

しかし、企業という組織は利益追求を目的とした組織であり、そこで働く社員は多かれ少なかれ価値提供をしなければなりません。それはノウハウだったり、時間だったりいろいろです。それによって対価を得ます。

そのため、企業という公的な場においては障害は特性となり得ます。

最近は価値提供を求められる場が公的な場から私的な領域にまで広がってきています。家族や友人との関係性においても、個人が何らかの価値提供をしたり、または何らかの役割を果たしたりしなければ、自己存在が許容されないようになってきました。

家でも学校でもよい子であることを強いられるこどもが児童館で荒れているという話は何度か紹介したと思いますが、よい子(親が意識的、無意識的に望む子の理想像を満たしている状態)でないと家族の中で安心して自己存在が許容されなくなってきているわけです。

障害を受傷する、障害者になるというのは、それまで自己存在を許容してもらうために自己が他者に対して果たしてきた役割を果たせなくなるという恐怖感に繋がります。

なので、障害のある人が活躍している様子がメディアて多く紹介されるようになった現在においても、障害者であるということは大変な現実です。

話があちらこちらにいきましたが、この記事に取り上げられた方が心を痛めてないことを祈ります。

この記事を書いた人

橋本 大佑(はしもと だいすけ)
筑波大学で障害児教育を学んだ後、渡独して現地日系企業(THK株式会社)に勤めながら障害者スポーツを学ぶ。2009年に帰国し、障害者の社会参加を促進するためのスポーツを活用した事業を実施。2016年より現職。国内外で共生社会や障害者スポーツ指導者養成に関わる講習を行う。また共生社会の実現に向けて企業を対象としたセミナーやコンサルタントも行う。
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