一般社団法人 コ・イノベーション研究所

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by 橋本 大佑(はしもと だいすけ)

あるニュースを見てモヤモヤしたこと

モヤモヤしました

今回紹介する動画はTBSニュースです。
プラスサイズのモデルとして活用する右足に障害のある35歳の女性を取材しています。

(外部リンク)
「生きづらさは恥ずかしいことじゃない」右足に障害ある35歳女性 事故の傷をメイクに取り入れプラスサイズモデルに ▷https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/639583

大前提としてなんですが、とても人として魅力的な方だと感じました。別に障害を武器にすることもなく、みんなと同じように傷つき、挫折し、それでも前を向いて生きる単純に姿は美しいです。

傷つき、挫折して、それでもポジティブに生きることは簡単なことではありません。昨今、よく耳にする不特定多数を狙う犯罪の加害者は、その背景に挫折と断絶があると報道されますが、一つ間違えると挫折は人の人生を狂わせてしまいます。だからこそ、自身の傷や挫折と向き合う人は尊いですし、輝いているのかと思います。

今回のニュースでは、オーディションに挑戦し、二次審査に受かった様子が紹介されていますが、それはこれだけの人間力があれば受かるでしょ、とは思ったりしました。
しかし、後半になると、「傷があってもここまでできた」という表現や、足にある傷をモチーフにしたメイクをする様子、勇気をもらったと語る故郷の友人などが出てきて、最後のセリフは以下の通りです。

「未来は変えていける、傷があってもここまでこれたよっていうのを私にできるんだったら悩んでるあなたにも絶対できる。生きづらさは恥ずかしいことじゃないというのを体現したい」

どうでしょう。僕は、すごくモヤモヤします。

モヤモヤする理由

①超人は超人であることを自覚した方がよい

これは、このニュースの主人公である芳坂映由花さんに言ってるわけではありません。彼女の周囲にいる方や、何よりこのニュースを作った人たちに伝えたい言葉です。

傷や挫折、そして自身の障害と向き合い、それをポジティブに意味づけできるのは基本的には、超人なんですよね。それは障害者の中の超人ではなく、一般の人も含めた中での超人です。

誰でもできることではないので、誰でもできるように伝えてほしくないです。パラリンピアン見ててもそう思うことあります。傷や挫折に絶望したり、見て見ぬふりをしながら生きることの方が多数派です。

こういう考え方に立つと、人間の深層心理の世界で、街の外は霧に包まれてその中には怪獣の影があるのに、主人公以外はその怪獣が見えないというSSSS.Gridmanというアニメは、そういった大きな問題を見て見ぬふりをする人間の心理をよく描いていたと思います。

②私にできるんだったら悩んでるあなたにも絶対できる

僕が見た感じ、このニュースの方(ファッションモデル・芳坂映由花さん)は、とても強く生きている人と思います。その少なくとも表面上は強い人が「私にできるんだったらあなたにも絶対できる」ということの違和感ですよね。

私にできるならあなたにもできる、なぜなら「あなたは私より優れているから」です。
これは深いですよね。

足にある障害のことかもしれないですし、プラスサイズのファッションモデルである体型のことかもしれないですし、役者を目指して挫折して一般の人よりも遅れて夢を志したからかもしれないですし、モデルの世界で容姿にコンプレックスを感じてしまっているからかもしれないですね。

彼女はニュースの中で「モデルの仕事は自分でいられる」という趣旨のことを話しています。表面的にその言葉を理解すれば、それは「一般的にネガティブと見られる属性が私にはあるけど、それも含めて私は私」ということだと思います。

そうなんです。自己を受容して自信を持っている言葉を発しているにも関わらず、自己評価が低いのです。

なぜ自己評価が低いのか?

これが何でそうなっているのかを考えると、ちょっと酷かもしれませんが、彼女のポジティブポイントは「周囲の期待に応えるための自己プロデュース」であり、本人もその構造に気づいていない(周囲の期待に応える=社会の中で価値を提供できている)可能性が考えられます。

周囲のポジティブな「すごいね」という反応の中に「(そんなに大変なのに)すごいね」という要素が含まれていて、それを無意識に察知してしまっているのだとすればそれは結構悲しい状況ですし、共依存的ともいえるかと思います。

なんかそんなことをニュースを見ながら考えてしまってモヤモヤしています。
単純なポジティブサクセスストーリーには見えないです。

この記事を書いた人

橋本 大佑(はしもと だいすけ)
筑波大学で障害児教育を学んだ後、渡独して現地日系企業(THK株式会社)に勤めながら障害者スポーツを学ぶ。2009年に帰国し、障害者の社会参加を促進するためのスポーツを活用した事業を実施。2016年より現職。国内外で共生社会や障害者スポーツ指導者養成に関わる講習を行う。また共生社会の実現に向けて企業を対象としたセミナーやコンサルタントも行う。
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