一般社団法人 コ・イノベーション研究所

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by 橋本 大佑(はしもと だいすけ)

トランスジェンダー女性の経産省トイレ利用制限について思うこと ①

トランスジェンダー女性の経済産業省トイレ利用制限について最高裁で逆転勝訴

男性として生まれ、性自認は女性である経産省の職員が4年以上前から行っていた裁判の結果が、今日(7月11日)15時に出ました。個人的にも結構注目をしていました。

性自認は女性、生まれた性別は男性、性転換手術は健康上の理由でできないという状態です。

経産省でも健康診断などは女性として受診できるようにするなどの配慮をしていましたが、
トイレについては2フロア以上離れたところの仕様するように指示。

これが違法だとして訴えていました(正直、ここまでの個人情報が公開されて暴露されている状態が異常で、裁判をするには勇気と覚悟が求められると思いますし、そんな状況は極めて良くないと思います)。

2015年に人事院は経産省の対応を認めますが、それは違法だとして訴えた地裁での第一審では原告が勝訴、第二審では経産省の判断が認められており、今日(7月11日)が最高裁での判断でした。

ちなみに原告の上司が「手術を受けないのであれば男性に戻ったら」と伝えたことについては第一審から一貫して違法と判断されており、賠償金の支払いが命じられていました。

(外部リンク)
経産省トイレ利用制限訴訟 性同一性障害の原告逆転勝訴 最高裁
https://mainichi.jp/articles/20230711/k00/00m/040/023000c?fbclid=IwAR2U6IIDlHNRKcYquPOvFFJL85Ts8OWEm5Crq-H3Nd1LTAEMulWWMwuJRb8

このニュースは恐らく、明日には各メディアで取り上げられてYahooニュースにも転載され、ネガティブなコメントがたくさんつきそうだなと思います。

その時に出てくるであろう話としては、
「自らが女性であると訴える方が女性トイレや銭湯を利用した場合、それを否定できなくなることは問題である」という内容ですね。

そして、恐らく「自らを女性と偽って女装する変態が女性トイレや銭湯を利用することを止められなくなる」というふうに議論が発展していくのが見えます。

このニュースから思うこと

僕の感覚としては性自認が女性の方は女性なので、上記のような女性からの拒絶は精神的に辛いだろうなと思います。

それと同時に制度を悪用する極々一部の悪人によって、本当に合理的配慮が必要な方の権利が失われてしまうことは許容できないなと思います。

例えば、障害者への支援制度でも、極々一部の不正利用者などによって、そうではない多くの障害者が不利益をこうむったりすることはよくあります。

例えば、JRの障害者割引対応のSuicaの導入が遅くなったのも不正利用が懸念されていたことは、一員としてあるはずです。
障害者用の駐車スペースや駐車禁止除外指定車標章でも不正利用が横行していることはニュースでもよく取り上げられています。

合理的配慮が必要な方の権利が失われてしまう可能性がある国立競技場の例

僕は現場を見ていないので、関わった方に聞いた話になるのですが、

新しい国立競技場には充電スペースが確保されている(はずです)。

それは、電動車いすであったり、生命維持のために必要な装置を充電するためです。

当初の国立競技場の設計段階では、充電スペースを設置する予定は全くありませんでしたが、当事者団体へのヒアリングを通して設置することになったそうです。その際、充電スペースを作るのはいいが利用するためには「鍵」が必要な状態で運用したいというのが、設計側から求められたそうです。

なぜかと言うと、フリーの充電スペースがあると、一般の障害のない人達がスマホの充電などで使ってしまうからということを危惧したためです。

しかし、鍵が必要になると、例えば、あの大きな国立競技場の特定の事務室に行って、申請等をして受け取らなければならないという手間が発生します。
それは非常に使い勝手が悪いので最終的には、フリーの充電スペースを設置することになったそうです(という話を2017年頃に聞きました)。

そうすると、その充電スペースは一般の人も使えてしまいますよね。

そうすると、本当に必要な障害者が来たときに使えなくなってしまっている可能性があります。その場合には、自分が必要であるということを現場で訴えて理解を得た上で充電スペースを確保する必要があります。

このようにある程度、利用者にとって負荷のない合理的配慮を行おうとすると、どうしても想定しない利用の仕方をする人たちをリスクとして考慮する必要があります。

まとめ

それが今回のニュースでは、女装して自身をLGBTと偽って女性トイレに入ろうとする犯罪者であったり、この事例では障害者の方が利用する充電スペースと明記してあるにも関わらず、充電スペースを利用してしまう人ということになります。

つまり、障害者など合理的配慮が必要になる人の負荷が少ない状況を作るには、モラルに期待する必要が出てきます。
どちらにしろ、今回の最高裁の判決のように犯罪的行為を犯す一部の人への懸念が、本当に必要としている人の権利を制限するのは好ましくないですね。

この記事を書いた人

橋本 大佑(はしもと だいすけ)
筑波大学で障害児教育を学んだ後、渡独して現地日系企業(THK株式会社)に勤めながら障害者スポーツを学ぶ。2009年に帰国し、障害者の社会参加を促進するためのスポーツを活用した事業を実施。2016年より現職。国内外で共生社会や障害者スポーツ指導者養成に関わる講習を行う。また共生社会の実現に向けて企業を対象としたセミナーやコンサルタントも行う。
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