「普変」という歌を聞いて思うこと
【あのちゃんの歌がとても良いです】
あのちゃん(アーティスト名義ではanoです)が、「普変」という歌を出しています。
2ndシングルで、作詞作曲はクリープハイプの尾崎世界観ですが、あのちゃんのキャラクターと何より表現力も相まってすごい考えさせられる内容となっています。
僕は、自分の中のモヤモヤを長文で(時には短い言葉で)表現することしかできないので、一見さん向けじゃないんですよね。
広くメッセージを伝えるには、楽曲やドラマ、アニメ、映画、そしてアートに昇華するのが効果的です。
一見さんにとってはいい音楽や、面白いドラマとして受け入れられ、人によってはそれぞれの深度で触れることができると押し付けがましくないですしね。
(外部リンク)
ano – 普変 / THE FIRST TAKE
この「普変」ですが、いろんな意味がありそうです。
「普通の変」
「普通にしているのに(傍目からは)変」
「普通は人によって変わる」
「無意識に固定化されている普通の概念を変えてやる」 とかですかね。
取り合えず1コーラス(イントロから1番のサビまで)分の歌詞を見てみたいと思います。以下、歌詞を引用。
『あたしは普通じゃないからとか いかにも健全な感性
そんなのどこにでもあるから大丈夫
こんなのは普通じゃないからって 指差して笑っているだけで終わっていく
それで大丈夫
「人と違うのが普通でずれてるから光るのにその個性を大事に」 とか笑える 神かよ
ムカつく
ちゃんとしてるのにいつもおかしくて それでもこれしかなかった
誰かが言う変なんて せいぜいたかが普通の変だ 怒ってる 別に普通』
以下、リンク先の画像にある手書きの歌詞がすごくいいです。
3カ所の大きく書かれた「ムカつく」がインパクトがあります。
(外部リンク)
ano、尾崎世界観(クリープハイプ)が作詞作曲した新曲「普変」の歌詞を公開▷https://www.thefirsttimes.jp/news/0000193030/
「普変」の歌詞を見て思い出したこと
この歌詞を見て、昨年読んだ朝井リョウの「正欲」を思い出しました。
伝えようとしていることは、多分同じで
「あなたの言っている普通ってあなたが勝手に考えている普通ですよね」とか
「世の中に普通として共有されているくくりに入れないことからの疎外感」とか、
そういうことに対する「(実は排他的で限定的であるにもかかわらず多様性を礼賛しているなんて笑っちゃうよね、みたいな)怒り」なんだと思います。
と思っていたら、朝井リョウの正欲を引用して「普変」をレビューしている記事を見つけたので、同じことを考えている人がいたのはちょっとうれしいです。
一部引用します。
『他人を指差してばかりで自分を深く省みない人に対する〈それで大丈夫?〉という指摘も、
巷に溢れる多様性礼賛のフレーズに対する〈神かよ〉という皮肉も、
朝井リョウ『正欲』にも通ずる〈誰かが言う変なんて せいぜいたかが普通の変だ〉も尾崎の書いた言葉だが、anoの言葉として受け取ることができる。』
(引用ここまで)
レビュー記事へのリンク
ano×尾崎世界観のタッグで広がる救いの連鎖 “普通”に悩む人にこそ聴いてほしい「普変」が放つ特別な輝き▷https://realsound.jp/2022/10/post-1153312.html
僕なりの歌詞の解釈 ー「普変」とは?
先ほど1コーラスまでの歌詞を紹介しましたが、1フレーズごとに僕なりの解説をしたいと思います。
『あたしは普通じゃないからとか、いかにも健全な感性』
自分で自分が普通じゃないと言えるのは、健全です。
本当にヤバいのは、自分では当たり前と思っていて他者からは異常に見えていて、その状況に本人が気づかない状態です。
それに、自分が普通じゃないと外部に言う(アウティングする)というのは、自分の普通ではないところを自覚していたとしても非常に勇気のいるところで、そんな簡単なことではありません。
「私、ここが変なんです」とか言えるということは、健全な感性と良好な精神状態が前提です。
まあ歌は、歌詞の最初の部分から、ケンカ売ってますよね、「普通じゃない」をカジュアルにアウティングできる人や文化に。
『そんなのどこにでもあるから大丈夫 こんなのは普通じゃないからって、指差して笑っているだけで終わっていく それで大丈夫』
個人的に、このセリフで話しかけてくれる人に、優しさや同情があることも多いので、すごい傷つくんです。例えば、僕はADHDで整理整頓ができなかったり、締め切りが守れなかったり、不注意や忘れ物が多かったりしますが、
そういう話をすると「あ、私も忘れ物は多いよ。ADHDの傾向あるかも。」みたいな話をされること結構あるんです。でも結構傷つくんです。
いくつか理由はあります。
まず「不注意のレベルはあなたが想定しているレベルではないですよ」ということであったりしますし、
「そのセリフの裏にある無自覚な上から目線(あなたと同じところまで降りていきますよ)」みたいなのも傷つきます。
しかし、同じ問題を抱えている人の中には「超人」がいて、自分の「普通ではないレベルで変なところ」を笑いに昇華して、社会的な関係性を築ける人もいるんですね。だからこの歌詞の中に「笑って」という言葉が入っているのは、とても共感します。
『「人と違うのが普通でずれてるから光るのにその個性を大事に」とか笑える 神かよ ムカつく』
人によっては、本人が心の底から絶望している「普通ではないレベルで変なところ」を個性という人がいるんですね。これは冷たい言葉です。
だからこの歌では、そんな上から目線というか、自らと異なる他者を個性として切り捨てる多様性礼賛を「笑える」と突き放しています。
「そんなことができるなら、あなたは神様ですか」とか、尊敬する知人の言葉を借りるなら「障害が個性であり、価値を持つのであれば私は神に祈ります」という絶望です。
そんなただでさえ苦しい自分を苦しめる全てのものに対する怒りが「ムカつく」という魂の叫びになります。
この「First Take」の歌唱で、あのちゃんが「ムカつく」と歌っているところは非常にエモくて「よく言ってくれた」という感じで、表現力がすごいなと思います。
『ちゃんとしてるのにいつもおかしくてそれでもこれしかなかった
誰かが言う変なんてせいぜいたかが普通の変だ 怒ってる 別に普通』
そんな前提を踏まえてサビの歌詞を見てみると、等身大のリアルな苦悩が詰まっているように思います。
この「普通」を「他者(社会)から求められる自分」とか「自らが理想とする自分」に置き換えてみると、この能力主義の社会の中で生きる苦しさにもつながる部分があり、多くの人が共感できるのではないかなと思います。
是非、最後まで聴いて最後まで味わっていただければと思います。