一般社団法人 コ・イノベーション研究所

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by 橋本 大佑(はしもと だいすけ)

ある障害を持つこどものYouTubeチャンネルを見て思ったこと

読売テレビのニュース動画がYoutubeに公開されました。
タイトルは『「いつ治るんだろうって思ってる…」りおなちゃんに密着 思わずこぼした本音と両親の想い、新喜劇・珠代姉さんと初対面で大号泣』です。

(外部リンク)
読売テレビニュースへのYouTubeリンク
「いつ治るんだろうって思ってる…」りおなちゃんに密着 思わずこぼした本音と両親の想い、新喜劇・珠代姉さんと初対面で大号泣

▷https://www.youtube.com/watch?v=d3M4iyv9QGE

ここで出てくるりおなちゃんは、「ちいりおチャンネル」というYoutubeチャンネルをやっていて、5か月で約75万人の登録者がいます。すごいスピードですね。

ちいりおチャンネルへのリンク
▷https://www.youtube.com/@chiirio/featured

ショート動画で見て気になってはいたのですが、実はりおなちゃんには障害があることがわかって、この「ちいりおチャンネル」については、ずっとモヤモヤしてます。

先天性の複数の疾患があって生まれてからも入退院を繰り返して、という感じで、1年くらい前に側弯症の手術をしてから下肢マヒとなって、という感じで結構重度な感じです。でも、このりおなちゃんは明るく、障害ではなく、そのキャラクターが受け入れられてチャンネル登録者が伸びているのかなと思います。

ただ個人的な印象としては、年齢相応のこどもらしくない、ということがとても悲しく見えました。

誰かを攻撃したり否定することは基本的にはしないでいようと思いますし、このケースでも誰かを責める気はないのですが、根本的に自己判断ができないこどもを公に出すことは控えるべきだと僕は考えています。ただ、当事者には部外者が推察できない何かがあるはずなので、そう単純に否定はできないですよね。ですので、今回はこのポイントは突っ込みません。

なぜ悲しく見えるのか?

もちろん、りおなちゃん自体がとても頭のいい子だとは思うのですが、なぜ悲しく見えるかと言うと、生活年齢(生きてきた年齢)よりも発達年齢(精神年齢)が高いということは、「そうならざるを得ない背景があるから」です。

つまり、通常のこどもよりも大人にならないといけない理由があるということです。

しかし、長くこういう状態が続くと、本来の自己の発達年齢は止まったまま、疑似的な人格だけが成長していきます。そして本来の自分を自分でもわからなくなってしまい、いろいろと精神的に追い詰められていくんですよね。

だからりおなちゃんは、年相応の自分でいることができなかったんだと思います。
他者(親)から求められる(理想とされる)自分でいなきゃいけなくて、明るくて年齢よりも大人びた状態になっているわけです。子にとって親は自分の生存を握る全てですから、無意識のそれを感じ取っていくんですよね。

だから、僕は初めてりおなちゃんの動画を見たときに「抱えて居るであろう苦しみ」が見え、結構辛くなっちゃいました。

リハビリを頑張る明るい姿の表と裏

2か月前に日テレが特集したニュースでは、そういった裏面は置いておいて表面に現れている明るい、りおなちゃんが紹介されていました。

(外部リンク)
日テレニュースへのリンク
【りおなちゃん】パパに強烈ツッコミ!病と闘う6歳娘と家族の軌跡 『every.特集』

https://www.youtube.com/watch?v=LI1JHAuyVZs

ただこの中で気になるのは、「リハビリに行くの嫌がったりしたことなくて」というセリフがあります。
正直、先天性の肢体不自由障害の方と話すと、幼少期のリハビリは地獄だったという人が少なからずいます。うちの師匠(弊社の名誉顧問、故ホルスト・ストローケンデル博士)もリハビリで心折れてる障害児と多く接する中でPTさんやOTさんに否定的なコメントをすることもありました。

最近、このセリフどこかで聞いたなと思ったら、柳原可奈子さんが娘さんの脳性麻痺を公表しましたね。その3歳の娘さんがリハビリを頑張るいい子っていうことをインタビューで答えていたんですね。りおなちゃんと同じ構造が見えます。

そんな中、今回のニュースでは、このリハビリに関する問題に深く突っ込んでいました。公園で、母とりおなちゃんが2人で話すシーンがあります。

母:「治るって信じてるから大丈夫」っていつも言うけど無理してる?

りおなちゃん(泣きながら):ママが心配しないように言ってる。私はずっと辛いんだけどさ。ママが絶対頑張って足を治したいっていうから頑張ってる。本当はいつ治るんだろうって思ってる。(母も泣きながら聞く)

というやり取りを流しています。

これは正直「そうだな」と思うと同時に、「こういうやり取りを公共の電波に出すんじゃねーよ」とも思います。もしかするとディレクターは、2か月前のニュースを見て、りおなちゃんの影に気づいてそれをテレビを通して解消しようという正義感で取り組んだかもしれません。実際に、これまで親子でできなかったレベルの会話ができてはいます。それでもこの放送は、放送していけない範囲まで踏み込んでいると怒りを感じます。

また、怒りの点だけではなく、お母さんも含めて、すごく辛かったと思うんです。でも、りおなちゃんはもっとしんどかったと思うんです。

2か月前のニュースでは、保育園の卒園式に出席しているシーンがあるのですが、実際は「リハビリを頑張るために保育園に行ってない」ということが今回のニュースで語られます。リハビリも車で4時間かけて専門の施設まで行くんです。

どんな気持ちで車に乗ってるんだろうと思うと心が痛いです。足が治らない自分でいることは、母の期待に沿えない自分でいることです。

成果の出ないリハビリに通う時間、家族に迷惑を掛けていると感じてるかもしれませんね、そうすると週に1回の遠距離リハビリだけではなく、通えない週の6日の自主リハビリの方が辛いですよね。

Youtubeチャンネルでは自宅のリハビリを笑顔で周りを笑わせながら行う様子が公開されています。辛いよね。顔で笑って心で泣いて、レベルじゃないですからね、心で泣きながら周囲を笑わせて。しかもその周囲は閉じた空間である家族ではなく、Youtubeやニュースを通じた全国民です。

こういうケースっていっぱいあるんです。

障害児の親が抱える心の課題って結構、根深いんです。本当は褒めたいのにそれをグッと飲み込むお父さんとかも見たことありますしね。
生活年齢よりも大人びたお子さんを見ることもあります。

その時に、親御さんを責めることは基本的にできないと僕は感じています。障害と向き合うって結構大変で部外者があーだこーだ言うことは結構難しいんですよね。ここに来るといつもより楽しそうっていう場所を作って上げてそこに来ている中で信頼関係を作って、その上で選択肢を提示して、選ぶのは当事者とご家族。

それくらいが限界な気がしますし、何より歩けなくなることや、歩けない状態が継続することへの漠然とした不安が、当たり前に生活している中で払拭できる社会はまだ作れていません。それは業界の中にいる僕も含めたすべての方の責任と思います。

残念ながら歩けないこと、車いすユーザーであることでいろんなことが制限されてしまう世の中です。でも、車いすで生活していて幸せに生きている人はたくさん知っているので、そういう価値観を広めていくにはどうすればよいかはすごい考えますね。

りおなちゃんのお母さんは、りおなちゃんをYoutubeに出して有名にして認知してもらうことが、将来の選択肢を増やすと考えているようなことをコメントしており、それもすごく理解しますね。だから簡単に部外者が責めることはできないわけです。

できれば車いすで鬼ごっこしたりしながら、車いすに乗って移動するのが楽しい、移動して何かをしたり、人と関わるのが楽しいという体験を提供する人が近くにいて、車いすユーザーであることへのネガティブなイメージが払しょくされるといいなと思います。

日テレのニュースに出ていますが、どうか24時間テレビには出ないでほしい。というか24時間テレビ的な感動ポルノ消費はされないでほしいです。

この記事を書いた人

橋本 大佑(はしもと だいすけ)
筑波大学で障害児教育を学んだ後、渡独して現地日系企業(THK株式会社)に勤めながら障害者スポーツを学ぶ。2009年に帰国し、障害者の社会参加を促進するためのスポーツを活用した事業を実施。2016年より現職。国内外で共生社会や障害者スポーツ指導者養成に関わる講習を行う。また共生社会の実現に向けて企業を対象としたセミナーやコンサルタントも行う。
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