一般社団法人 コ・イノベーション研究所

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by 橋本 大佑(はしもと だいすけ)

名古屋城復元バリアフリー化について

差別発言があったと話題になった名古屋城のバリアフリー化検討会議ですが、会議で問題となった配付資料が公開されました。

(外部リンク)
令和5(2023)年度有識者会議開催実績/有識者会議/名古屋城公式ウェブサイト▷https://www.nagoyajo.city.nagoya.jp/plan_expert/2023/04/20230404_4218.html?fbclid=IwAR1tuIkUHwpEhM9BYRjFDfIWltLF133FRygP5Iy8NZ0vTBtJ8E-O1cdsAuU

資料では、バリアフリー法や差別解消法が引用され、防災の観点も踏まえてバリアフリー化は必要という視点が記載されています。
(完全に昔の姿を再現すると言っても木造でもあるので、スプリンクラーなどの消火設備が必要です)

折衷案としては、これも数年前から提示はされていたのですが、船舶の内部や航空機の搭乗などスペースが限定されるところに設置が可能なエレベーターが提示されています。

そして、「この省スペースのエレベーターをどの範囲で設置するか」という名古屋市民へのアンケート結果が資料に記載されていて「最上階まで設置する」という回答がもっとも大きな割合(約半数)を占めています。(その他の回答例:設置しない、一階まで、わからない、その他、不明)

つまり、資料を見る限りは、何らかのバリアフリー化は既定路線のように見えます。ただ、実際にどんな議論が行われたかは議事録の公開を持って確かめる必要はあります。

ちなみに、省スペースのエレベーターですが、少し大きめの電動車いすなど幅のある車いすは乗れないサイズのため、人によっては自分の車いすから飛行機と同様に専用の車いすに乗り換える必要も出てくると思います。

そうではなく、バリアフリー法の基準にあったエレベーターを設置してほしいというのが当事者団体から訴えられていたという報道をかなり昔の記事で読んだ記憶があるので、やっぱり議論が進んでいないなという印象を受けます。

こういった資料を見ると、当時のままに再現してほしい方々は、エレベーター設置によって、自分達の希望が通らない危機感を覚えるでしょうから、そういった焦りが障害者への敵視に繋がり、差別発言に繋がったのではと考えたりしますが、どちらにしろ差別発言自体は容認できるものではありません。

差別発言の背景にある「独善」というキーワード

僕自身、障害をテーマに長く取り組んでいますが、「正しいと思ったら終わり」という感覚があります。

自らの思想や理念を「正しい」と考えた瞬間に思考停止に陥り、異なる他者との折衷案を探していくことが難しくなります。
今回の件でも「当時の姿を復元したい」と主張している方の言説を見ると、その達成自体が価値があり、正しいことであるというところで思考停止してしまい、何故それが必要かというところには至ってないように思います。

思考停止せず、完全な復元が必要な理由を考察し、その理由を発信していれば、市民へのアンケートの結果は違ったものになったかもしれませんね。

僕自身は、バリアフリー化を維持してほしいと思っています。権利条約や国内法に準拠しない取り組みの事例ができてしまうと、他の史跡が追随する可能性もありますし、既にバリアフリー化しているものを非バリアフリー化することはあり得ないと感じます。

特に名古屋市の資料を見ると名古屋城の入場者の一番大きいグループは高齢の男性ですし、市民アンケートの結果は重要視すべきです。

この記事を書いた人

橋本 大佑(はしもと だいすけ)
筑波大学で障害児教育を学んだ後、渡独して現地日系企業(THK株式会社)に勤めながら障害者スポーツを学ぶ。2009年に帰国し、障害者の社会参加を促進するためのスポーツを活用した事業を実施。2016年より現職。国内外で共生社会や障害者スポーツ指導者養成に関わる講習を行う。また共生社会の実現に向けて企業を対象としたセミナーやコンサルタントも行う。
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