一般社団法人 コ・イノベーション研究所

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by 橋本 大佑(はしもと だいすけ)

あるバラエティー番組を見て思ったこと

【「この一生なおらへんで」は傷つきます」】

高学歴女子がゴミ部屋の主でそのことにいろいろと突っ込むというバラエティー番組がネット記事で紹介されていましたが個人的に傷つきました。
こういう記事から見えるエイブリズム(障害のない、いわゆる普通の状態を最善としてそこから逸脱するものを低く見る考え方でいつの間にか思考に染み付いてます)があるということと合わせて思うことを書きたいと思います。

(外部リンク)
名倉潤 「ゴミ屋敷」に住む超高学歴女優に忠告「本当に気を付けたほうがいい」「一生なおらへんで」
▷https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2023/06/09/kiji/20230609s00041000560000c.html

この記事から感じるADHDを持つ僕自身のこと

僕もADHDで整理整頓、掃除はほぼできなくて、月に10時間のヘルパー利用が認められています。なぜ認められているかというと一人ではできないからです。
多忙になると生活が仕事で染まり、日常生活が破綻していくので、部屋が荒れ、部屋が荒れることで生活のリズムが乱れ、回復力が落ち、仕事の効率が落ちてさらに日常生活が破綻していくというのは独り暮らしを始めて25年来の一番大きな悩みです。

そして整理整頓ができないことで他者に迷惑を掛けたりすることもありますし、他者から低い評価を受けることもあるので、整理整頓や掃除ができないことは自己評価の低下に繋がります。それは多くの人が当たり前にできることができない自分を荒れた部屋という視覚的な現実が突き付けてくるからです。

そして掃除は辛いです。
なぜなら劣った自分と向き合う作業でもあるからです。さらに努力はしていますがそれでもできないという繰り返しでさらに自己評価が落ちてしまいます。そういった心が弱った状態だと、通常は受けないような不当な条件のオファーも受け入れてしまい、社会生活もバランスが崩れていきます。
だから整理整頓や掃除って単なる家事ではないと思います。

だから、個人的にこの記事を読んで、「一生なおらへんで」という言葉に結構傷つきました。

そして、掃除ができることが最善であり、そこから逸脱している自分が低く見られているように感じます。後、今まで他者に掛けてきた迷惑が走馬灯のように頭を駆け巡り、かなり憂鬱な気分になります。この言い方は能力否定ではなく、人格否定のような意味を僕にとっては持ちます。またこの言い方だと、問題の根幹が自分の内側にあることが前提です。社会モデルじゃないですね。

こんな感じで、何気ない突っ込みがかなり傷つくわけです。ちなみに頑張ろうねと言われるのも結構しんどいです。頑張ってできていないので。善意の頑張ろうねは時に人を傷つけます。

番組から伝わる偏見

また、高学歴女子がゴミ部屋というところにも偏見を感じます。
別に掃除ができるできないは学歴に関係ないですし、もちろん性別にも関係ありません。でも、高学歴であれば普通の人より優秀なのだから掃除くらいできるでしょ、女性だから掃除くらいできるでしょ、という偏見が制作側にあるのでこういうタイトル付けになっています。

別の視点からこの記事について考えること

それは、情報公開についてです。

本来であれば低い自己評価にも繋がり、かなり個人情報でもある掃除ができないことは公開する必要はないです。
僕自身もこの話を書くこと自体結構悩みましたし、投稿ボタンを押すときには勇気が必要と書きながら感じています。本来であれば公にする必要のないことですしね。でも何気ない一言で傷つく人もいるということ知ってもらいたくて書いてます。

情報公開する理由は多々あると思いますが、ここでは気になる2つのパターンを紹介します。

1つ目は「自分の障害に価値付け、意味付けしたいパターン」です。
障害診断を受ける前から多くの障害のある方とコミュニケーションをしてきましたが、残念ながら障害があることで機会の損失を受けたり、精神的に落ち込んだりすることはたくさんあります。「なぜ自分には障害があるのか」ということを考えてしまうこともありますし、自己評価が下がってしまうこともあります。

そういった中で自分の情報を公開することで同じ障害のある人に役に立つんではないか、もしくは社会に役に立つんではないか、という感じで障害のある自分というポジションを作り、社会との関係性を作るケースがあります。障害者自身ではなく、家族が情報発信する場合もありますが、結構見ていて心が痛くなるような情報発信の例です。自分を大切にできないから大切なプライベートを切り売りしてるので。

2つ目は、今回のケースがそうですが、笑いなどのエンタメに昇華するパターンです。
特に今回の出演者は、番組でボカシを入れたゴミ部屋の写真を放送後にボカシなしでTwitterにアップしてます。知名度商売なのでバズる方がいいんでしょうね。
しばしば、このタイプの方がスタンダードのように扱われることがあります。私は笑いに昇華したから、他の人もそうすればよい、というような発信をすることもありますが、それができるのは限られた強者だけといつも思います。

僕自身が車いす監修をした今、放映中のドラマの原作もこんなパターンだと思います。
最近は、障害のある方やその家族が、SNSやYouTubeで情報発信をすることが増えてとても勉強になることが多いのですが、そこまで公開しなくてもいいのにと心配になることも多かったりします。

この記事を書いた人

橋本 大佑(はしもと だいすけ)
筑波大学で障害児教育を学んだ後、渡独して現地日系企業(THK株式会社)に勤めながら障害者スポーツを学ぶ。2009年に帰国し、障害者の社会参加を促進するためのスポーツを活用した事業を実施。2016年より現職。国内外で共生社会や障害者スポーツ指導者養成に関わる講習を行う。また共生社会の実現に向けて企業を対象としたセミナーやコンサルタントも行う。
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