一般社団法人 コ・イノベーション研究所

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by 橋本 大佑(はしもと だいすけ)

名古屋城のバリアフリー化について

 
名古屋城のバリアフリー化に関する市民討論会での差別的発言が話題になっています。
 
 
(外部リンク)
TBS NEWS DIG – YouTube
障がい者は「我慢せえよ!」名古屋城復元をめぐり“差別的発言”が波紋 河村市長出席で陳謝も

 
 

未だに二元論のまま平行線を辿っている

 
僕も最初はネット記事で見てひどいなと感じたのですが、音声で実際に聞くと聞くに堪えないですね。ただこういった討論会に参加し、発言する人の選定はある程度できると思うので、名古屋市の責任は重いと感じます。
 
歴史的建造物を史実に忠実に再現する場合、バリアフリーな建物になることは基本的にないですから、長年続いているはずの議論が「共に納得できる折衷案や革新案に向けて」ではなく、未だに二元論のまま平行線を辿っていることにこそ絶望しますね。
なるべく冷静にこの問題を考えると、日本は2014年に国連の障害者権利条約を批准し、締約国となっています。締約国とは「その条約に書かれていることを実施していきます」という立場を取ることです。
 
 
さて、その障害者権利条約第三十条第五項(c)及び(e)には下記のような記載があります。
 
(c)障害者がスポーツ、レクリエーション及び観光の場所を利用する機会を有することを確保すること。
(e)障害者がレクリエーション、観光、余暇及びスポーツの活動の企画に関与する者によるサービスを利用する機会を有することを確保すること。
 
名古屋城は観光資源であることから、バリアフリー化することが権利条約上は望ましいですよね。また、公的機関の取り組みであることからも障害者差別解消法からもバリアフリー化しないという選択肢はないと感じます。
 
以前も紹介したかもしれませんが、パラリンピックの教材である『I’m Possible(アイムポッシブル)』の最新版では、国立競技場の設計、建設におけるバリアフリー化の過程について紹介しています。
それまで障害当事者団体の訴えは今回の件と同様に「クレーマー」のように扱われることも少なくなかったそうですが、この国立競技場においては、障害当事者団体と協力して「よりよい国立競技場を作る」ことを目的として建設的な議論ができたことこそがレガシーであると考えています。
  
それと同様に建設的な議論がこの名古屋城で行われているかと言われるとそんなことはありません。数年前も「革新的な技術の開発によって必ずしもエレベーターがなくても対応できるようにする案を求める」というようなことが言われ、その例として車いすユーザーを大型ドローンで上部に運ぶといったものが記載されていたと記憶しています。リンク先のニュースにもあるように市長肝いりの事業として結論ありきで建設的ではない議論が形式的に行われている印象を受けます。
 
 

どうやったらこの状況を少しでも変化する方向に働きかけていけるのか…

 
最近、いろんなニュースのコメントなどを見ていて思うのですが、多様性やダイバーシティ、インクルージョンなどという美しい言葉だけがファッション的に先行するのですが、他人事である場合だけ受け入れられているように感じます。例えば、「街中で困っている障害者を助けよう」みたいなことがよく言われますが、笑っちゃうような話で、つまり、日常生活の中の特別な場面として、自分にとって大切な何かが犠牲にならない限りは上から目線で関わるという話です。
 
実際は、ポリコレで自分の好きだった小説や漫画、映画、テレビのお笑いが規制されたり、今回のように自分の好きな歴史に忠実な城が実現するという夢が制限されたりするくらいのことで拒否反応が出てしまっています。
 
こんな状態でどうしたら自分の日常生活の中に障害のある方が関わってきたりしたときに差別のない対応ができるのかと思いますし、どうやったらこの状況を少しでも変化する方向に働きかけていけるのかと、ここ数年ずっと考えていますね。
 
多分このニュースで差別的な発言をした人は自身の発言がどれだけひどいものなのかがわかっていないのでしょう。特定の属性に分類される心身の状況にあることによって、どれだけ多くの機会制限を受けるのか、その苦しみは当事者になってみないとわからないのかもしれません。
どうすればいいのか、いろいろ考えます。
 
 

この記事を書いた人

橋本 大佑(はしもと だいすけ)
筑波大学で障害児教育を学んだ後、渡独して現地日系企業(THK株式会社)に勤めながら障害者スポーツを学ぶ。2009年に帰国し、障害者の社会参加を促進するためのスポーツを活用した事業を実施。2016年より現職。国内外で共生社会や障害者スポーツ指導者養成に関わる講習を行う。また共生社会の実現に向けて企業を対象としたセミナーやコンサルタントも行う。
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