一般社団法人 コ・イノベーション研究所

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電動車いすに乗って障害者の真似して笑う動画拡散について思うこと

 

従業員が電動車いすに乗って障害者の真似をする動画をTikitokに投稿、本社社長が謝罪

 
 
最近は回転ずし屋さんなどで不適切動画をSNS投稿して炎上するニュースが多いですが、障害者の真似をして揶揄する動画をアップしたものが炎上しました。
 
動画自体は14秒ですね。電動車いす「Whill」に乗った若い男性従業員が車いすに乗りながら特定の障害を想起される首を曲げるポーズや表情をまねしており、撮影者を含む周囲が笑っているという非常に不快な動画です。動画自体はTikTokに投稿されました。既に動画自体は削除されていますが「マツダ 障害者」などで調べてもらうと拡散された動画を閲覧することができます。直接動画自体はリンクしませんので、興味ある方は検索してみてください。
 
なぜ自動車メーカーのマツダの従業員が電動車いすに乗っているのか不思議に思う方もいるかもしれませんが、このWhillという電動車いすは最近マツダだけではなく、トヨタやホンダなど大手自動車メーカーの販売店で近距離のモビリティ手段として取り扱いが始まっています。
最近は街中でもWhillに乗っている人を見かけることが多いので、顧客なのか、街中で見た方なのか、それとも街中で見かけた方であればWhillではなく違う電動車いすに乗っていたかもしれませんが、そういったものを見て、真似をしてSNSに動画を投稿したのではないかと思います。
 

ミンストレル・ショーやフリーク・ショー、小人プロレスなどと構造は同じように感じる

 
はた目から見て炎上することが明白な動画をSNSにあげる心情についてはいろんなところで語られているのでここでは深堀りはしませんが、障害者を模倣する行為が「面白い」とされてしまうのはミンストレル・ショーやフリーク・ショー、日本でも女子プロレスの前座として行われていた小人プロレスなどと構造は同じように感じます。

そういったものを「エンターテイメントとすることが人権的に相応しくない、恥ずべきことである」と多大な犠牲を元に学んだ結果が現在であるはずなので、この動画を上げた人たちの中にそういった学びをする機会がなかったことは大変悲しく感じますし、アップした動画については怒りを感じます。
 
Whillはモデルにも寄りますが、通常の電動車いすタイプは約50万円(一時期よりだいぶ安くなりました)。高齢者の免許返納も後押しになっていると思いますが、自動車販売店経由でも結構売れているのではないかと推測します。このニュースを見ると、マツダの代理店では買わないと考える方が多いと思います。それだけが理由とは思いませんが、こういった動画の公開がマツダ規模の会社の社長の即時謝罪につながっていることから、企業のSNS炎上や、障害問題に関する意識は昔より高くなったのではないかとも感じます。

この記事でも言及していますが、該当する従業員へのヒアリングを行った上で「決して障害者を揶揄するつもりはなかったと申しております」ということを言い訳にしているのは問題外です。差別的表現は、意図の有無を問わず問題なので、この文言が謝罪文として有効と考えている意識には共感できません。

 

コンプレックスを笑いにするには演者に腕がいる

 
 
ちょっと話は変わりますが、「お笑い」も「エンタメ」の一部と考えたときに、「太っている」とか「禿げている」といった一般的にネガティブな偏見が定着しているコンプレックスを笑いにするのって結構、演者に腕がいると思うのです。ただ単に特定の要素を「おもしろいでしょ?」と言われてもなかなか笑えません。

例えば乙武さんはTwitterでよく「不謹慎だ」と炎上していたのが、「息子に乙武さんの爪の垢を煎じて飲ませたいと言われたけどこちらには爪がない」というような発言でした。これが障害者を傷つけるとか不謹慎だとかそんな炎上をしていたわけですが、まず第一に面白くないですよね。「禿げている」ことが面白いのであれば、禿げている芸人はほぼ面白いことになりますが、禿げていることで笑いを取れている人って本当に一部の腕のある芸人だけだと思います。太っている芸人もたくさんいますが、それを笑いにしている人はあまり売れている人にはいないように思います。
 

下記リンクの『ABEMA TIMES』での議論は、障害のある当事者が多数参加し、売れているお笑い芸人の方も参加していますが、差別的な笑いや障害をそのまま笑いにすることがどういったリスクにつながるかを論理的に話すことができる人が参加していないので危険な議論と思います。
 
(外部リンク)
「つまんないと言いづらい」”障害者とお笑い”を乙武洋匡と議論 
パンサー向井慧「面白い・面白くないの判断はフラット」 | 国内 | ABEMA TIMES | アベマタイムズ
https://times.abema.tv/articles/-/6023231
 

視覚障害で「R-1グランプリ」を優勝した濱田祐太郎さんについては、よくネタを見てみると「視覚障害」自体を笑いにはしていません。視覚障害のある自分が社会と関わった時、そこに生じる相互作用を笑いにしています。これは感動ポルノのステラ・ヤングさんも同じですね。

 
濱田祐太郎さんのネタ動画へのリンク

(外部リンク)
濱田祐太郎【よしもと漫才劇場 8周年記念SPネタ】 – YouTube

 
 
ステラ・ヤングさんのTED動画へのリンク
 
(外部リンク)
ステラ・ヤング- 私は皆さんの感動の対象ではありません、どうぞよろしく – YouTube

 

どういった発言が、社会の無意識レベルの偏見を高めてしまうか、構造について意識してほしい

 
 
僕は8年ほど前から「太っている人」として生きていますが、起業したころ、経営者の勉強会やいろんなセミナーなどの懇親会によく出ていました。
その中には少なからず、大して仲良くもないのに僕の身体的特徴を笑いのネタにして集団の中で自身のポジショニングをする人がいました。そこには「太っていていじられることって美味しいよね」っていう空気がありました。
それには僕はいつも少なからず傷ついていましたが、最近そういったことは全くなくなりました。コロナであんまり飲みの場に行ってないこともありますが、最近は「笑いに」というよりは真剣に身を案じてくれる人が多く、ありがたい限りです。こういった変化が生じた背景には、テレビ等で身体的特徴をそのまま蔑んで笑いにすることがタブー視されるようになってきたところがあると思います。何年か前の『M-1グランプリ』で「ぺこぱ」が「誰も傷つけない笑い」と評価されたように、テレビの影響力は大きいと感じています。
 
 
現在、アメリカでは白人が黒人に扮して笑いをすることや、黒人をネタにした笑いをすることはできない状態になっています。ただ、黒人が黒人をネタにすることは許容されるそうです。じゃあ黒人であれば誰がどんなネタをしてもよいかと言われるとそうではないと思います。その条件に該当するのではないかと僕が考えることを東京大学矢口 祐人先生の言葉を引用して記載します。
 
 
「黒人であるとはアメリカにおいて自身の意思とは無関係にアフリカで拉致され、財産として売り飛ばされ、幾世代にもわたりアメリカで強制労働に従事させられた人間を先祖に持つことを意味する。黒人であるということはこの残酷な歴史の当事者としてのアイデンティを持つことである。それは今日のアメリカの富と繁栄が、黒人に対する途方もない不正義のもとに成立したものであるという事実を忘れないことでもある。」
 
下記論考「”Black Lives Matter”どう日本語に訳すかという本質的な問い」より引用
(外部リンク)
“Black Lives Matter”どう日本語に訳すかという本質的な問い(矢口 祐人)
https://gendai.media/articles/-/73357
 
 
発信力、影響力のある方たちにはどういった障害に対する発言が、社会の無意識レベルの偏見を高めてしまうか、そういった構造について意識してほしいと思います。
 

「障害者を揶揄するつもりはなかった」電動車椅子に乗って障害者の真似して笑う動画拡散。
広島マツダが謝罪(篠原修司) – 個人 – Yahoo!ニュース
(外部リンク)
https://news.yahoo.co.jp/byline/shinoharashuji/20230501-00347869

この記事を書いた人

橋本 大佑(はしもと だいすけ)
筑波大学で障害児教育を学んだ後、渡独して現地日系企業(THK株式会社)に勤めながら障害者スポーツを学ぶ。2009年に帰国し、障害者の社会参加を促進するためのスポーツを活用した事業を実施。2016年より現職。国内外で共生社会や障害者スポーツ指導者養成に関わる講習を行う。また共生社会の実現に向けて企業を対象としたセミナーやコンサルタントも行う。
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