一般社団法人 コ・イノベーション研究所

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by 橋本 大佑(はしもと だいすけ)

視覚障害体験をする際は道路交通法第十四条を確認

【道路交通法第十四条を知らないのかな?】

※このブログは2022年12月21日のFacebookへの投稿に加筆修正したものです。

共同通信Youtubeチャンネルのニュースへのリンク【スマホ歩行支援を体験 視覚障害者向け、河野デジタル相】
https://www.youtube.com/watch?v=ZPv1BrYkIWA

スマートフォンで視覚障害者の移動を支援する「ダイアログ・アイ」を河野デジタル大臣が体験というニュースです。

こういう最新テクノロジーが障害当事者の可能性と選択肢を広げることには大賛成です。実際に目的地を設定すると経路をAIが音声で知らせてくれたり、恐らく前方の障害物の認識もできるのでしょう。さらには、コンビニでおにぎりを買うときは胸の前にあるデバイスの前にかざすと文字を読み上げてくれるため、買い物の可能性も広がります。

アクセシビリティを高めるよい事例ですが違和感が3つ

ただ事業実施として違和感が3つ。

1.怖い、ビビったという言葉が2回出てきました。

1993年の障害平等研修の指導者向けガイダンスでは、既に「アイマスク体験は視覚障害体験とは全く異なるものである」と示唆されていますし、近年の国内の研究でも「アイマスク体験は恐怖からトラウマ体験となり、逆に視覚障害者への偏見を高めてしまう」というものが公表されています。視覚障害の方が介助者を連れないで外出するためには、たくさんの訓練や、経験(失敗も含む)を元に、「一人で外出できると判断して外出しています」。自分がどこまでできるか知っているため、できないところを支援も求めることもできます。今、社会の中で目にする視覚障害者は「今日視えなくなった人」ではないです。
ただ、アイマスク体験をすることで、より視覚障害者の不安や課題を実体験を持ってわかりやすく体験することはできます。教育をする現場では実施時間や予算、配置できるスタッフなどに限界があり、その中で優先順位をつけなければなりません。そのため、視覚障害者でない人にアイマスクを付けて体験してもらうことが、果たして一般の視覚障害者にどこまで「自分も使える商品として認識されうるか」は疑問です。一点、評価すべきは河野大臣は最低限の白杖の使い方自体は事前に学習をされていたように見えました。そこは好感です。

2.道路交通法を守ってください。

道路交通法第十四条を引用します。

(目が見えない者、幼児、高齢者等の保護)
第十四条 
目が見えない者(目が見えない者に準ずる者を含む。以下同じ。)は、道路を通行するときは、政令で定めるつえを携え、又は政令で定める盲導犬を連れていなければならない。

2 目が見えない者以外の者(耳が聞こえない者及び政令で定める程度の身体の障害のある者を除く。)は、政令で定めるつえを携え、又は政令で定める用具を付けた犬を連れて道路を通行してはならない。
これが第十四条の条文です。賛否あるのは承知していますが、「視覚障害の人は政令定めるつえを携えなければならない。(引用ここまで)

政令で定めるつえとはもちろん白杖のことです。白杖を利用している人を見ると視覚障害者であることがわかるようになっています(これはこれで個人情報の観点からどうだとおもうこともありますが )。

これに対して第十四条第二項では、「目が見えない以外の人は政令で定める以外のつえを携えてはならない」ということが明記されています。つまり晴眼者(視覚障害者に対して視力がある方(両眼の視力が強制後に0.3を超える人に使われる言葉です)は、行動で白杖を使ってはならないというのが今の道路交通法の定めるところです。

多くの障害に関して教育・セミナーを行っている団体は、屋外での白杖体験をしており、それをSNS上に上げています。今は、社会的正義(公正)に何となく共有されていますが、法律で定める以上、特に省庁関係の公的な事業では順守してほしいと思います。別に対策としては同じ長さの竹の棒などを少し改良すればいいだけの話ですし、後は行動ではなく敷地内なので私有地で行えばいいことだと思います。

こういう事例を観ると、ここに関わっている人、特に視覚障害者に関する比較的基本的な法律を知らないということに問題があります。(僕は視覚障害児教育を学んでいた20年前に最初に聞いたことであり、それ以降は公道では白杖を使っていません)

もしこういった事態が容認されるのであれば、法治国家としての手続きが蔑ろにされているように感じます。公道で白杖を使っている団体は、すぐに基本的なところを勉強してほしいなと思います。この背景には「いいことやってる」と関係者がどこかで思っている意識が見えてしまいますね。

3.僕だったらこう構成する

河野大臣がデモンストレーションするのはメディアを活用した広報を進める起爆剤にはなると思います。そのため、その要素はどこかで入れたいです。省庁の中の行動でない部分や省庁内に併設されているコンビニを使ってデバイスの有効性を確認する。その経験を元に視覚障害者が新しくデバイスを使ったときに何が改善するかを検討し、同行して観察・確認するというのがやり方としては適切だと思います。

またもう一つの案としては屋外では白杖を使わないということです。白杖と同様の機能を持った棒の形をした代替品は山のようにあります。僕は昔は竹を使ったりもしていました。
いい取り組みなので、関係者みんなが本質的なところを深めていないので、もったいないなと思います。

今後への期待

あとは、この商品がいつ実用化できて、価格はどれくらいになるのかというところの課題も共有してほしかったです。

少なくともこの用具は視覚障害者(特に全盲の方)のアクセシビリティを高め、自立した生活を促すことができる効果が想定されます。後は、点字ブロックに関するデータがどれほどクラウドに蓄積されているかが問題ですね。

取組みとして汎用性の高いよいプロジェクトと思いますが、もう少し視覚障害に包括的な知識を持つためのメンバーを外部識者として配置する必要はあると思います。

最近、この手の視覚障害者支援ビジネスは増えているので、今後も期待ですが、「障害のない人に対して障害のある人の状況についてわかりやすいステレオテープな課題を抜き出し、その解決を図っていく」という手法は絶対に今後必要ですが、特別なものを作りすぎて価格が高騰し、既存の制度では購入価格が届かなくなり、普及が遅れるということもあるでしょう。

是非デジタル担当相から厚生労働省に(内閣官房を通してからも知れませんが)働きかけをしてもらいたいなと感じました。

この記事を書いた人

橋本 大佑(はしもと だいすけ)
筑波大学で障害児教育を学んだ後、渡独して現地日系企業(THK株式会社)に勤めながら障害者スポーツを学ぶ。2009年に帰国し、障害者の社会参加を促進するためのスポーツを活用した事業を実施。2016年より現職。国内外で共生社会や障害者スポーツ指導者養成に関わる講習を行う。また共生社会の実現に向けて企業を対象としたセミナーやコンサルタントも行う。
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