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by 橋本 大佑(はしもと だいすけ)

障害者への不妊治療強制に反対します

【障害者への不妊治療強制に反対します】

※このブログは2022年12月21日のFacebookへの投稿に加筆修正したものです。

「勧めただけで強制ではなかった」
「不妊手術を受けた側も強制されたとは感じていない」

そうだからと言って容認される問題ではありません。

スウェーデンでの不妊治療強制

僕が大学生の頃、とても炎上した案件がありました。

福祉国家として知られるスウェーデンが障害者への不妊治療を強制的に行っていたことが1997年に報道されたことです。この報道を機にスウェーデンにおける不妊治療という障害者に対する人権侵害の実態が明らかになっていきました。

詳細を知りたい方はリンク先の書籍が参考になります。
『福祉国家の優生思想(2000年・明石書店) 』(AMAZONへのリンクです)
https://amzn.asia/d/iKGK6Dx

正直、国際的には20年以上前に終わった議論を今日にしないといけないのは辛いことですが、現実なので仕方ないです。

日本の旧優生保護法での強制不妊治療

こういった強制不妊治療については1948年~1996年まで日本では旧優生保護法という法律の元に数万人が不妊手術を受けています(対象は知的障害者や身体障害者、そして素行に問題のあった人です)。

これに対して2019年に救済措置法が採択された際に当時の安倍首相が

「多くの方々が、特定の疾病や障害を有すること等を理由に、(中略)旧優生保護法に定められていた優生手術に関する規定が削除されるまでの間において生殖を不能にする手術等を受けることを強いられ、心身に多大な苦痛を受けてこられました。このことに対して、政府としても、旧優生保護法を執行していた立場から、真摯に反省し、心から深くお詫び申し上げます」

とコメントしています。

数万人というと信じられない数字ですが一応根拠示します。

『「1. 本人の同意を要さない不妊手術」は、第4 条と第12 条によるもので、合わせて約1 万6500人。「2. 本人の同意に基づくとされたものの、実質的には強制的な状況下で実施された不妊手術」は、第3 条の遺伝性疾患とハンセン病を理由とした手術で約8500 人。これらを合わせて、「病や障害を理由とした不妊手術」が約2 万5000 人ということです。ただ、3 条の「母体保護」を理由に手術を受けたとされる約82 万人の中にも、実際は、障害を理由に不妊手術を強要された人が含まれている可能性があります。』

優生保護法のもとでの強制不妊手術と公文書「利光 惠子(立命館大学生存学研究所)』(立命館生存学研究 vol.3 p129-p142)より引用。

詳細は下記BBCの記事をご覧ください。
BBCニュースへのリンク
https://www.bbc.com/japanese/48047996

この背景にあるのは旧優生保護法という法律にも言葉が使われていますが、優性思想です。

優性思想とは『身体的、精神的に秀でた能力を有する者の遺伝子を保護し、逆にこれらの能力に劣っている者の遺伝子を排除して、優秀な人類を後世に遺そうという思想。』を指します。
ナチスがユダヤ人排斥等で掲げた理念です(ナチスは一部の障害者についても障害を理由にして命を奪っていました。)

ナチスが行った障害者の殺害についてはリンク先を参照ください

ホロコースト百科事典へのリンク(外部サイト)
https://encyclopedia.ushmm.org/content/ja/article/the-murder-of-people-with-disabilities
(余談ですがドイツで障害者スポーツに関わる方に話をすると、このナチスの事例を話題にする人が少なからずおり、そういった方の中にはナチス時代の贖罪として障害に関わる分野で働いている、という意識があると感じます。

現代にも根強く残る優性思想

不妊治療を強制することや勧めることが「善い」「悪い」と言った議論は人道的な観点からは明確なので、ここで詳しく書くことはしませんが、今回の事例の背景には現在に根強く残る優性思想が現れています。
「勧めただけで強制ではなかった」という言葉からは「自分たちに非はなく、悪いことはしていない」という意思や「勧めること自体は悪と考えていない」という認識が見えます。では何故不妊治療を勧めるかと言うと、対象者の収入や能力が一般と比べて低い(と判断している)ため、子を生してもちゃんと育てられないだろうという偏見があるためです。

「不妊手術を受けた側も強制されたとは感じていない」というのは、DVを受けている人が、日常的な暴力をDVと認識できないことと近いと感じます。必要以上に自身を低く評価している背景には、周囲の人がどのように関わってきたかという歴史が見え、怒りすら覚えます。

メディアの報道の仕方にも疑問

このニュースにはもう一つポイントがあり、こういった当事者の声や施設関係者の声が、不妊治療を行った正当性を担保すると考えているメディアの存在があります。今回シェアしたニュースでは、「勧めただけで強制ではなかった」「不妊手術を受けた側も強制されたとは感じていない」というコメントは否定的なものとして報道されていません。つまり、これを報道することに社会的正義を感じているメディア関係者がいるということです。そして実際にそういった意識は報道を通じて一般に浸透しています。

下記のリンクは、ニュースそのものではなく、Yahooニュースに付いたコメント欄のリンクのものです。

Yahooニュースへのリンク「障害者カップルに不妊処置提案…「本人たちの意思で」行ったという施設の問題点は?法律家が指摘 北海道」 
https://news.yahoo.co.jp/articles/f4fee698b19d898f99a6e44f7ed4882bc13a5765/comments

これ、相模原事件の時もそうだったのですが、非人道的なことを行った対象が障害者であったとき場合、その行為を行った人の立場に立って、その行いの背景を推察し、さもわかったかのように「難しい問題ですね」とか「現実的なことを考えるとその行為は理解できます」というような論調が多数派となります。

つまり、収入の低い層であったり、能力が低い(と読み手が無意識下で判断してしまう)人たちの人権を、社会が許容していないということだと感じます。

有名な反ナチスの牧師の言葉を引用します。

『ナチスが共産主義者を連れさったとき、私は声をあげなかった。私は共産主義者ではなかったから。
彼らが社会民主主義者を牢獄に入れたとき、私は声をあげなかった。社会民主主義者ではなかったから。
彼らが労働組合員らを連れさったとき、私は声をあげなかった。労働組合員ではなかったから。
彼らが私を連れさったとき、私のために声をあげる者は誰一人残っていなかった。』

今回の問題は、障害の有無に限らず、全ての人の権利の問題につながります。今は対象が障害だけでも、一つ許容するとその波はより広範囲に広がっていくと考えます​
因みに旧優生保護法で不妊手術を行った全国での事例の約6分の1が北海道で行われたものです。これは、今回の件が北海道で起こった背景にあったであろうものと切り離して考えることは難しいと思います。
http://honkawa2.sakura.ne.jp/7396.html

この記事を書いた人

橋本 大佑(はしもと だいすけ)
筑波大学で障害児教育を学んだ後、渡独して現地日系企業(THK株式会社)に勤めながら障害者スポーツを学ぶ。2009年に帰国し、障害者の社会参加を促進するためのスポーツを活用した事業を実施。2016年より現職。国内外で共生社会や障害者スポーツ指導者養成に関わる講習を行う。また共生社会の実現に向けて企業を対象としたセミナーやコンサルタントも行う。
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