一般社団法人 コ・イノベーション研究所

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by 橋本 大佑(はしもと だいすけ)

ストローケンデル先生の遺した言葉(7)

ストローケンデル先生の遺した言葉

このテーマも第7回目となりました。

今日は先生の格言集からではなく、僕が先生から聞いて
印象に残っている言葉を紹介します。

昨年9月、5年ぶりにドイツを訪問したときに
街中に多くの車いすユーザーがいることに気づきました。

職業柄、街中にいる車いすユーザーは自然と目に入るので、
大坂に行くと、東京より多いなと感じたりするのですが、
ドイツでは少なくとも東京の5倍の車いすユーザーを街中で目にしました。

ドイツは障害者差別禁止法が厳しいので公共施設においてのバリアフリーは確保されていますが、
石畳に代表されるように街中は決して日本よりよい環境とも言えません。
しかし、それでも多くの車いすユーザーが外出している現実があります。

そこで5年ぶりに訪れて気づいた日本との違いについて
ストローケンデル先生と話をしました。

そのときに先生が言ったのは

「ドイツ人の方が日本人よりも車いすユーザーが外出し、社会的な生活を送ることを当たり前と考えているからでは」

ということでした。

社会一般の認識として、こういった考え方を持っている方が多くいることはとても重要ですが、
車いすユーザーの多くが中途障害であることや、障害という現実は当事者だけではなくご家族にとっても同じ現実となるという
ようなことを考えると、受傷前にそういった考え方があることは、受傷後の孤立を防止する要因となりうると推測できます。

一般の認識が変わると障害者の機会損失が軽減される

ドイツでは一般の週1回以上のスポーツ実施率は71%であり、
日本の約40%を大きく超えています。

日本では2011年、スポーツ基本法の制定により、はじめて法的に
障害者のスポーツをする権利が認められましたが、ドイツにおいては
1977年のスポーツ・フォー・オール憲章から障害者のスポーツを
する権利が認められてきました。

このように一般のスポーツに対する意識があるからこそ、ドイツでは
障害者に対するスポーツをする機会が尊重されていると感じます。

全く違う話ですが、オランダでは障害者が売春を行うときにその費用を助成する制度が
30以上の自治体で取り入られています。
※一定以上の収入がないことや特定のパートナーがいないことなどの支給要件があります

これは性交渉をすることが人権であるという考え方がオランダにあるからで、
障害を受傷することによりその権利が侵害されることは人権問題であるという
考え方があるからでしょう。

対象となるグループへの共感がキーワード

ただし、これらの権利は特定の属性を持つ集団(性別・人種など)に対して
社会が持つ共感の度合いによって、どこまで認められるかが決まります。

残念ながら全人口の13人に1人は障害者という現在においても、
日本では障害に対する共感の度合いは非常に低いと感じます。

先日、Yahooニュースでも紹介されたねとらぼの記事では、
電動車いすユーザーの屋外での飲酒について非常に厳しいコメントが多く寄せられました。

https://headlines.yahoo.co.jp/cm/main?d=20181128-00000094-it_nlab-soci&s=lost_points&o=desc&t=t&p=1&fbclid=IwAR1dqeILSjukxuoBcaHF30RqieM5BN6sopXTDdq5j00RTjednolXsUerMfk

これはやはりまだ「障害」が一般の人にとっては「自分事」ではない状況を表しているのかと思います。

共感を生み出すための尊重・尊敬

ここ最近、心のバリアフリーなどの課題についてさまざまな人に意見を聞いたり、先行研究を調べていく中で
他人事ではなく自分事として引き付けて考えることの重要性を感じています。

その際に必要なものは共感です。

ただ残念ながら「障害」は非常に共感されにくい属性と感じます。

この共感をどこで設定するかというのはとても難しい課題です。
東京大学先端研の熊谷先生たちは、僕が講演などを拝聴する上で受けたイメージですが、
「能力社会の中で生きていく生きづらさ」を共感のキーワードとしていると感じます。

当研究所で協力させていただいた映画「私の人生なのに」においても
最後の場面で、これは共感のキーワードになるかもしれないという素敵なセリフがありました。

僕はこういった共感を引き出すために最も重要な要素は「尊重・尊敬」ではないかと考えています。
このキーワードに関して僕が先生から学んだ言葉を紹介して今日の記事は終わりにします。

『私はこれまでに何千人という障害者と出会い、親交を深めてきた。
尊敬できる友人もたくさんいる。

しかし、そんな経験があったとしても、もし私が明日障害を発症・受傷したとした場合、
私は障害を受傷した自分と向き合っていく自信はない。

スポーツの現場などで私と出会う障害者は、既に障害を受傷した自らと向き合い、外出している存在だ。

だから、私が障害者と関わるときに第一に抱く感情は「尊敬」である。』

この記事を書いた人

橋本 大佑(はしもと だいすけ)
代表理事
筑波大学で障害児教育を学んだ後、渡独して現地日系企業(THK株式会社)に勤めながら障害者スポーツを学ぶ。2009年に帰国し、障害者の社会参加を促進するためのスポーツを活用した事業を実施。2016年より現職。国内外で共生社会や障害者スポーツ指導者養成に関わる講習を行う。また共生社会の実現に向けて企業を対象としたセミナーやコンサルタントも行う。
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