一般社団法人 コ・イノベーション研究所

各種お問い合わせはこちらから

お問い合わせ お問い合わせ
お問い合わせ

by 橋本 大佑(はしもと だいすけ)

ストローケンデル博士の遺した言葉(6)

ストローケンデル先生の遺された言葉を紹介します(6)

このテーマも第6回目となりました。

今日はあるべき指導者をテーマに紹介していきます。

Lehren unterstützt erfolgreiches Lernen, bei dem der Schüler möglichst viel selbst macht.

Lehren unterstützt erfolgreiches Lernen, bei dem der Schüler möglichst viel selbst macht.
指導とは、「生徒ができるだけ多くのことを自分自身で行った上で学習目標を達成する」ための支援である

これは先生の指導論をよく表している言葉です。
普段はとてもよく話す人でしたが、特にマンツーマンの指導になったときは
常に生徒に寄り添うのですが、掛ける言葉や直接的な手助けは常に最小限でした。

指導者が手を出したり、口を出せば出すほど成功体験で得られる効果は目減りします。
「自分が頑張ったからできた」のか「指導者がよかったからできた」のか、
生徒が成功体験のときにどちらの感覚を持った方が得られる達成感が高いかは言うまでもありません。

日本での試行錯誤

指導時にかける言葉をよりシンプルに簡潔に行うことは常に心掛けて取り組んできました。
しかし、日本においては人数も拠るのですが集団指導ではこの実現が難しく、無理にドイツ式の
やり方を取り込もうとしてかなり苦労しました。

これは、ドイツと日本の学びに対する文化の違いが根底にあります。

ドイツでは学校体育は1学級の生徒数は24名が基本ですが、
実技教科は12名以下などさらに少人数で行われます。

こういった少人数での集団学習文化で、ドイツ人は
「わからないことがあったら恥ずかしがらずに質問する」習慣を身につけています。

ドイツで働いていたときも、例えば部内の会議などで1時間くらいったった後に、
「そんな基本的なことを今、聞きます?」というような場面がよくありました。
しかし、そういった質問によって、実はちゃんと理解をしていなかったり、
集団内の個々の細かい認識の差異が埋まっていったりします。

つまり、「わからないことがあれば参加者が聞いてくれる」という
信頼関係の元にドイツでは集団指導ができます。
(但し、運動導入時の障害児・者のマンツーマン指導ではこれはそこまで適用されません)

ですので、悪い意味ではなく、講師が最低限の言葉で指導を進めても、
その中でわからない人が質問をし、それに対して講師が答えることで
全体の学びが底上げされるわけです。

しかし、日本においてはこれは適用されません。
ドイツでは集団指導の対象が「だまっている(質問をしない)=わかっている」と判断できますが、
日本では「だまっていること」が「わかっていること」を保障しません。

ストローケンデル先生から学んだことは「取りこぼしをしないボトムアップの指導」であり、
「文化が違えば学びの習慣が違うため、日本向けの指導法は、文化を踏まえたアレンジが必要なのは当たり前だ」
という教えもあり、試行錯誤をしながら日本人に合った教え方に先生の指導法を落とし込んでいくということは、
今でも続けていることです。当事者を対象とした現場指導は人数が増えてもそこまで問題はないのですが、
指導者向けの講習会については。どうしても20名を超えるくらいの集団では言葉が多めになってしまうので、
まだまだ課題はあります。

先生の指導の様子を収録した映像教材の制作

今回、先生の追悼セミナーに向けて映像教材を制作しました。

撮影は2015年9月。3年前です。

この時は集団向けの車いすスポーツ講習会を1日行い、次の日に車いす操作スキルの向上を目的とする
車いすを使用する当事者の方に来ていただき、先生が個別指導をする様子を撮影しました。

実際に前輪キャスターを持ち上げて駆動輪だけでバランスを取るキャスター上げの技術を
先生のマンツーマン指導を通して1から習得した映像をもとにまとめた映像教材です。

先生の声の掛け方、サポートの方法などが詰まった教材が作れたことは
先生の1人の弟子としても大変光栄なことです。

12月5日のセミナーに先駆けて上映会を行いますがそのときは、そういった先生の指導論の
ポイントの解説も行いながら進めていく予定です。

この記事を書いた人

橋本 大佑(はしもと だいすけ)
代表理事
筑波大学で障害児教育を学んだ後、渡独して現地日系企業(THK株式会社)に勤めながら障害者スポーツを学ぶ。2009年に帰国し、障害者の社会参加を促進するためのスポーツを活用した事業を実施。2016年より現職。国内外で共生社会や障害者スポーツ指導者養成に関わる講習を行う。また共生社会の実現に向けて企業を対象としたセミナーやコンサルタントも行う。
戻る