一般社団法人 コ・イノベーション研究所

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by 橋本 大佑(はしもと だいすけ)

ストローケンデル先生の遺した言葉(4)

ストローケンデル先生の遺された言葉を紹介します(4)

ストローケンデル先生の遺した言葉の紹介も4回目です。

今日は先生の指導法の構築に関するものを紹介します。

Methodik ist Arbeit am Detail.

Methodik ist Arbeit am Detail.
方法論は精密な仕事である

先生が大学を退官する時に教え子が作ったTシャツの真ん中に記載されている言葉です。

直訳するとわかりにくいので、もう少し読み砕くと
『(成功体験を導くためのスモールステップのプログラム学習などの)指導論(の構築)は
精密(な分析と検証を積み重ねた上で行う)仕事である』
ぐらいな先生の思いを圧縮した言葉だと思います。

先生はこの言葉をスモールステップの指導法を実演するときによく使っていました。

プログラム学習はスモールステップの原理で構築されますが、一つ一つの学習段階を
細分化することで失敗をさせずに成功体験をより確実に提供することができます。

車いすでボールのピックアップ

写真はウィルチェアーラグビーで車いすを使ったボールのピックアップを指導している写真です。
この写真のステップが第一段階で、静止しているボールをピックアップする技術は4ステップで指導をします。

こういった細分化によって「できない」体験を回避することは、特に初心者を対象とした指導や、
練習に不安(恐怖感)の伴う技術の習得にとても有効です。

「精密な仕事」の意味

本当にこのスモールステップ指導が精密な仕事だと常々思うのは、それをどう構築するかだけがポイントではないからです。
指導を行う対象の状況(年齢や障害、習得への動機など)に応じて、ベーシックの指導法を都度最適化するという作業が
必要となります。また個別指導と集団指導においても指導は変えなければならなかったりします。

「指導案は作りこんだ上でいつでも現場で捨てろ!」

というのは常に頭に置いていることではありますが、1回上手く機能した指導法であったとしても、
目の前の対象に最適であるとは限りません。常に対象の状況を観察し、柔軟に対応する必要がありますし、
現状の指導法が最善とは考えずにいつでも見直しをしていく必要があります。

「あの技術を教える指導ステップは見直すことにしました」とそれまで8ステップで
教えていたものを10ステップに変更するという話を、僕は2016年に聞きました。
それまで40年掛けて構築してきた指導法を74歳になって変更したわけです。

そして自身で書いた教本も書き換えていましたが、その当時先生は
「何でこの指導法に今まで行きつかなかったんだろう。こっちの方が全然効率がいいのに。」
と言っていました。

恐らく現場指導の中で思いつかれたのだとは思いますが、数十年の経験をもとに
自らが確立した指導論を権威とせず、常に見返す姿勢はとても格好いいと感じたことを覚えています。

それは「少しでも効率的に成功体験を提供する」という熱意のもと、常に指導の対象者と
向き合い続けた先生の姿勢を表していると感じたためです。

先生からいただいた宿題

先生は晩年肢体不自由障害児の水泳指導に力を入れていましたが、先生が掛かれた教本では
顔を水につけるまでの10ステップの指導法が記載されており、こういった指導ステップの
細分化は先生が長年にわたって現場での観察・分析・検証の積み重ねを続けた結果として
開発されたものです。

先生は、このようにスモールステップの指導法を車いす操作や各種車いす競技の指導などで
たくさん残されました。そのステップを記載した教本は残っていますが、そこには
「このステップで指導をしましょう」ということしか書いてありません。

なぜそのステップで指導が必要かということは言語化はされていないですし、
先生も経験の上で行っていることも多くありました。

日本に帰国して車いすの指導ができる人材の養成講習を作るまでには約7年の時間が
必要でしたが、それは先生が作ったステップを検証、分析し、日本人に向けて
最適化するという作業に掛かった時間でした。

晩年は「お前の方が指導は細かいな」とよく言われましたが、これから先生の指導法を
現場で使いやすい形で伝えていくには、同様の作業が必要となってきます。
そういった意味では大きな宿題をいただいたなというふうにも感じています。

この記事を書いた人

橋本 大佑(はしもと だいすけ)
代表理事
筑波大学で障害児教育を学んだ後、渡独して現地日系企業(THK株式会社)に勤めながら障害者スポーツを学ぶ。2009年に帰国し、障害者の社会参加を促進するためのスポーツを活用した事業を実施。2016年より現職。国内外で共生社会や障害者スポーツ指導者養成に関わる講習を行う。また共生社会の実現に向けて企業を対象としたセミナーやコンサルタントも行う。
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