一般社団法人 コ・イノベーション研究所

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by 橋本 大佑(はしもと だいすけ)

ストローケンデル先生の遺した言葉(3)

ストローケンデル先生の遺された言葉を紹介します(3)

ストローケンデル先生の遺した言葉の紹介も3回目になりました。

これまでのブログでは、先生が話した言葉と遺した言葉を分けてきました。
では何が遺した言葉なのか、というと先生がまとめた資料を元にしています。

見ての通りドイツ語ではありますが、先生がよく講習会で言う言葉をまとめてほしいという要望が
ドイツであったそうで、それを元に先生が書き溜めたものを昨年共有してもらった資料が
写真のものです。全部で41の文章が記載されています。

お釈迦様の教えについては500人の弟子(五百羅漢)によってまとめられましたが、
先生の遺した言葉については故人が作成したまとめがあるため、そこに書いてあるものを
遺した言葉として僕が聞いた言葉とはわけて記載をしています。

先生が引用した先人の言葉

その先生の資料の一番最初に記載されている言葉が古代ローマ三賢人の一人、セネカの言葉です。

Am meisten tut der Mensch für sich selbst, indem was er für andere tut

Am meisten tut der Mensch für sich selbst, indem was er für andere tut
他人に対して善行をなす者は、何よりも多く己自身に対して善行をなす
ルキウス・アンナエウス・セネカ(紀元前1年頃~65年)

他人のために生きるということは自分のために生きるということである。
他人のために生きることにより、結果としてより多くのものを得るからである。

というような解説文をよく見る言葉です。

これについては日本を代表する哲学者である西田幾多郎先生の善の研究を引用することで
より分かりやすくなるのではと思います。
この本には現代の共生社会についての示唆が多く含まれています。
Google Booksでも無料で読めますのでご興味のある方は是非ご一読を。

自己の満足は個体の中で完結するのか

西田幾多郎 【善の研究】第三編第十二章「善行為の目的(善の内容)」より引用
『我々は自己の満足よりも かえって自己の愛する者
または自己の属する社会の満足によりて満足されるのである。
元来我々の自己の中心は個体の中に限られたる者ではない。
母の自己は子の中にあり、中心の自己は君主の中にある...』

特に日本社会においてはこの傾向はとても顕著だと思います。

ストローケンデル先生は多くを残し、与えた方ではありましたが、
前回のブログで紹介した「あなたの成功は私にとっても成功である」という
言葉にあるように生徒の成功を誰よりも喜ぶ指導者でした。

先生は他者と関わり、無償で与え続けることで誰よりも多くのものを受け取って
いたのかもしれません。それが、41の格言の一番最初にこの言葉が来ている意味だと
感じています。

9月末に先生の葬儀のため、ドイツに訪れたとき、多くの方が僕に話しかけてくれました。
晩年は僕の話ばかりしてくれていたそうで、「あいつは日本で頑張っている」ということを
いろんな方に言ってくれていたそうです。

そういった意味では僕は先生から多くのものをいただきましたが、
僕も少しは先生にお返しができていたのではないかとこの言葉を見ながら感じます。

写真は先生が車いすスポーツ連盟の仲間、そしてご友人の方と撮影したものですが、
思い返すと先生は常にだれかと一緒に笑顔でいた記憶があります。

先生が受け取っていたもの

先生はよく指導者として一番幸せな瞬間はどういうときか?という話をしていました。

先生と比べれば短い指導者経験ではありますが、僕も自分が専門としている種目が技術に関する指導であれば、
だいたい最初に会ったときに感じるものはあります。この年齢、この障害、・・・という要素を考えると
ここまでは習得できるかな、これくらい時間かかりそうだなというようなところです。

もちろん先生も長い経験から、そういった感覚は持っていらっしゃいました。
そんな先生が指導者として最も幸せな瞬間は

「こんなことができるようになりました」

と言われたときに

「自分もそこまでできるようになるとは思っていなかった」

と言えたときだそうです。

自分が関わった生徒が自分の想像を超えて、その先に到達することが
最も幸せな瞬間であると感じていたということですが、
先ほどの写真で先生と一緒に写っている人たちは皆さん先生の教え子でした。

今ではドイツ車いすスポーツ連盟の中で重要な役割を担い、
地域でのスポーツ機会の創出に日々取り組んでいる方々です。

そういった意味ではこの写真は先生の幸せな瞬間を収めたものなのかもしれません。

この記事を書いた人

橋本 大佑(はしもと だいすけ)
筑波大学で障害児教育を学んだ後、渡独して現地日系企業(THK株式会社)に勤めながら障害者スポーツを学ぶ。2009年に帰国し、障害者の社会参加を促進するためのスポーツを活用した事業を実施。2016年より現職。国内外で共生社会や障害者スポーツ指導者養成に関わる講習を行う。また共生社会の実現に向けて企業を対象としたセミナーやコンサルタントも行う。
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