一般社団法人 コ・イノベーション研究所

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by 橋本 大佑(はしもと だいすけ)

ストローケンデル先生の遺した言葉(1)

ストローケンデル先生の遺された言葉を紹介します

私の恩師でもあるホルスト・ストローケンデル博士の追悼イベントを12月5日に行います。
日本だけではなく、ドイツからも多大な支援を受け、一人の弟子として日本でもこういったイベントが
実施できることとなったことにはとても感謝をしています。

ご協力いただいた皆様どうもありがとうございました。

さてイベントに向けてストローケンデル先生が残された言葉を紹介していきたいと思います。

ストローケンデル先生の格言

先生には指導論や指導者としての在り方を伝えるときによく使う格言のようなものが数多くあります。
写真は先生がケルン大学を退官した時のイベントで先生の後ろ姿を撮影した写真ですが、教え子たちが
その先生の格言をTシャツにしてプレゼントしたそうで、そのTシャツを着ている写真です。
先生の格言の中にはドイツの詩人シラーの言葉など先人が遺したものもあれば、オリジナルの
ものもありますが、今日からイベントに向けて先生の言葉を解説も含めて紹介していきたいと思います。

スポーツで得られる心理的効果、身体的効果

Physiologische, körperliche Verbesserungen (Gesundheit) sind beim Sporttreiben positive Nebeneffekte!
『身体の改善(健康)はスポーツの副次的な効果である』

この言葉は僕が先生とはじめてお会いしたのは2004年6月に聞いた、僕の悩みを受け止め、解決してくれた言葉です。
先生がスポーツに関わっていた姿勢をとても明確に表している言葉だと思い、最初に紹介させていただきます。

何のために指導を行うのか

ドイツに渡航する前、僕は日本で障害児教育を学んでいました。その中で実際に指導をする機会に恵まれ、
「できないと思っていたことができたときに人が変わる」という経験をさせていただきました。
僕の当時の専門は理科教育でしたが、障害があることで理科実験は見学となる障害児は少なくありません。
みんなと同じことができない(機会すら与えられない)経験は自尊感情の損失につながっていきます。

だからこそ「できないと思っていたことができた」経験は、自らの認識を大きく変えるチャンスになります。
そういった経験をどうやったら提供できるかという想いのもとに、僕は方法論を学んでいました。
方法論というのは「どのように手法や用具などを工夫すればできない状態を解消し、できる体験を提供できるか」と
いうことです。そういった中で理科室に限定される理科ではなく、より汎用性が高いスポーツに興味を
持ったのが障害者スポーツに関わるきっかけとなりました。

学生時代にぶつかった悩み

そういった中でたくさんの現場を見させていただきました。見学した現場では、僕が求める工夫された
方法論が高いレベルで活用されていました。しかし、そういった授業において生徒の多くが寝ている場面も
少なからず見ました。

それは僕にとっては大変ショックな現場でした。自分が追い求める方法論を高いレベルで満たしている
授業が生徒の興味・関心を引けていないこともショックでしたが、そういった授業が現場で許容されている
ことも大変大きなショックでした。方法論さえ高いレベルで満たされていれば、本来の教育の目的は
達成されていなくてもよいのか、という疑問が生じました。内的な変化を促すために勉強してきた
方法論は、僕の中では手段であり、目的ではなかったためです。自分で振り返っても当時決してできのいい
学生ではなかった自分がそういった疑問を先生方にぶつけても「まずは方法論を学びなさい」と言われることも
多く、自分の力不足も含めて悩む日が続きました。

ストローケンデル先生との出会い

ドイツに行ってその疑問をストローケンデル先生にぶつけたときに、先生は「お前の言いたいことは100%正しい」と
僕の意見を受け止めてくれました。

そのときに言われたのがこの言葉です。

Physiologische, körperliche Verbesserungen (Gesundheit) sind beim Sporttreiben positive Nebeneffekte!

Physiologische, körperliche Verbesserungen (Gesundheit) sind beim Sporttreiben positive Nebeneffekte!
『身体の改善(健康)はスポーツの副次的な効果である』

スポーツ(身体活動)によって、身体的にポジティブな変化は得られるかもしれない。
しかし、我々が目的としているのはそこではない。
スポーツを通して目的とするのは内的な変化であり、身体機能の改善や健康づくりというのは
あくまでも副次的な効果にすぎない。

という意味です。

もちろん身体活動によって身体の機能改善を目的とした専門的な指導を行う方法論はあります。
しかし、ストローケンデル先生は明確に「自分がスポーツ指導をする目的はそこではない」と
明言し、「そういう指導を学びたければ自分のところで学んでいけばいい」と言ってくれました。

そうやって声を掛けてもらったのが先生との初めての出会いでした。

関連する先生の格言

これに関連する先生の格言をもう1つ紹介します。

Spiel, Sport und Bewegung sind Teil des musisch-emotionalen Bereich des Lebens.

Spiel, Sport und Bewegung sind Teil des musisch-emotionalen Bereich des Lebens.
遊び、スポーツ、運動(身体活動)は、人生における芸術的な感情表現の領域に含まれるものだ。

先生はよく、「身体は感情を動かすために演奏する楽器のようなものだ」という表現を使っていました。
これも、先生がスポーツを通じてどういったことを目的として指導を行っていたかがよくわかる表現です。

12月5日に向けて先生の言葉を定期的に紹介していきますのでよろしくお願いします。

この記事を書いた人

橋本 大佑(はしもと だいすけ)
筑波大学で障害児教育を学んだ後、渡独して現地日系企業(THK株式会社)に勤めながら障害者スポーツを学ぶ。2009年に帰国し、障害者の社会参加を促進するためのスポーツを活用した事業を実施。2016年より現職。国内外で共生社会や障害者スポーツ指導者養成に関わる講習を行う。また共生社会の実現に向けて企業を対象としたセミナーやコンサルタントも行う。
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