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by 橋本 大佑(はしもと だいすけ)

映画『私の人生なのに』を観てきました

映画『私の人生なのに』(7月14日公開)を観てきました

7月17日に新宿バルト9で映画『私の人生なのに』(7月14日公開)を観てきました。

新体操選手だった主人公が脊髄梗塞で倒れ、車いすを使用する生活に。
障害と向き合う中で少しずつ進みながら成長していく青春映画です。

私個人としても、生まれて初めて映画のエンドロールに名前がクレジットされる貴重な映画体験をしました。

関わることができたことが光栄と感じる映画

取り合えず映画を観た感想は

「協力させていただいた映画がとても素敵で関わることができてよかった」

ということです。

これまでにも試写会などで数度作品は見ていますが、映画館で鑑賞した今回、初めて観客として
純粋に楽しめた感じがしています。

ステレオタイプの「車いす=かわいそう」という映画ではなく、純粋に青春映画としてみていて考えることが
いっぱいありました。

ポイント1.監督の謙虚さ・真摯さ

障害児教育をきっかけに障害のある方と関わるようになって早17年。
実は今になっても「障害って何だろうか」という問いが哲学的に頭をよぎることがあります。
今でもたまに障害のある方に「すいません、思い込みでした」と謝ることもあります。

障害は印象の強い外見的特徴です。これが、血液型占いに象徴される属性へのイメージ付けが
好きな日本人の国民性とも相まって人対人で行うべきコミュニケーションを大きく阻害しています。

「障害」とは本来人格に掛かるものではないのですが、障害という外見的特長が印象が強いため、
その属性に意味づけをしてしまい、人格へのアプローチが難しくなってしまう、ということです。

この属性への意味づけ(偏見・バイアス)は、対象に近ければ近いほど嵌りやすい罠でもあるため、
障害当事者への偏見は意外と障害当事者の方が大きかったりすることがあります。

バイアスは日常を生き抜くために人間が獲得してきた思考の簡略化の過程であるため、バイアスが
あること自体は全く悪いことではありません。そのため、大切なことはバイアスをなくすことではなく、
バイアスがあることを自ら意識する謙虚さであり、

バイアスがある中でどうするかに真摯に向き合うことではないかと考えています。

そういった意味で、この映画は、「障害=かわいそう」「障害=能力が低い」「障害=常に支援が必要」と
いうようなステレオタイプのイメージがありません。これは、恐らく「障害」にそれほど近いところにいなかった
であろう原監督が、当事者や関係者へのインタビューを通して「障害」に対して謙虚に、そして真摯に
向き合っていただいたことで達成されたことではないかと感じています。

ポイント2.障害と向き合うことと青春

心のバリアフリーにおいては、自らと状況の違う他者に対する共感力が重要とされています。
では、どこに視点をおいて共感を引き出し、障害を他人事から自分事にひきつけるのか。

いわゆる社会的弱者とされる少数派が暮らしにくい社会を作り、その恩恵を享受している我々にも
障害者が困り事を抱える要因の一端があるという社会への注目を引き出す社会モデルという考え方があります。
同じ社会に住む仲間としての共感を引き出そうという意図がそこには感じられます。

最近、能力主義社会と障害を結びつけて共感を引き出そうとする動きもあります。
この能力主義の社会においては、自らが持つ能力により、社会から必要とされ、自己が存在が承認されます。
そのために「他者から求められる自分・自らが理想とする自分」であろうとする必要がありますが、
この理想的な自己と、実際の自己の間には乖離があります。

障害のある方も、例えば理想的な自己(障害のない自己)と現実の自己と間の乖離に悩むことがあります。

この理想的な自己と現実の自己との間のギャップに悩み苦しむその一点においては、多くの方が
この感覚(能力主義の社会で生きる苦しさ)を持って共感をできるのではないか、という考え方です。

そして、この理想的な自己と現実の自己との間に折り合いをつけていく作業を青春と定義するのであれば、
中途障害者が障害と向き合う過程を描く映画は青春映画であり、さらにそれを青春を謳歌する20歳前後の
主人公が演じることで、一歩ずつ前に進もうとする過程が丁寧に描かれていると感じます。

ポイント3.障害を無理なく活用した演出の妙

僕は特に映画評論を専門とは全くしない人間ですが、細かい演出にとてもひきつけられました。
主人公が車いすユーザーであるからこそ演出される関係性やキャラクター描写が嫌味なく、
そこかしこに散りばめられています。深く話すとネタバレになりますので、そこは是非皆様が
実際に映画館で鑑賞して見つけてみてください。

個人的には「障害」を取り扱う映画としてはエポック・メイキングな印象を受けました。

というような理由で、『私の人生なのに』、とてもおススメの映画です。

(外部リンク)
映画『私の人生なのに』公式サイト
http://watashinojinsei.com/
7月14日(土)新宿バルト9ほか全国ロードショー

この記事を書いた人

橋本 大佑(はしもと だいすけ)
筑波大学で障害児教育を学んだ後、渡独して現地日系企業(THK株式会社)に勤めながら障害者スポーツを学ぶ。2009年に帰国し、障害者の社会参加を促進するためのスポーツを活用した事業を実施。2016年より現職。国内外で共生社会や障害者スポーツ指導者養成に関わる講習を行う。また共生社会の実現に向けて企業を対象としたセミナーやコンサルタントも行う。
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