一般社団法人 コ・イノベーション研究所

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by 橋本 大佑(はしもと だいすけ)

ストローケンデル先生の招聘事業が終了しました

障害者スポーツの意義について各地でセミナーを行いました

障害者スポーツの権威であるストローケンデル博士を2月28日~3月8日まで日本に招聘しました。
岩手、宮城、東京(2ヶ所)の計4回のセミナーを実施し、300名以上の方に参加いただき、
メディア5社から取材を受けました。事業が無事に終了しましたのでご報告させていただきます。

この事業で伝えたかった障害者スポーツの意義とは?

今回の招聘事業で伝えたかったことは「障害者スポーツが障害者の社会参加を促進できるツールであること」です。一般のスポーツでは、健康の維持・増進のために行う余暇スポーツ(生涯スポーツ・レクリエーションスポーツ)と特定の目的を達成するためにその範疇を超えて行う競技スポーツの2つの分類があります。しかし、障害者スポーツにおいては、「社会参加を促進するためにツールとして活用するスポーツ」としてリハビリテーションスポーツという分類があります。

もともと、障害者スポーツは医学的なリハビリ効果を高めるツールとして発展しました。現在、知られているパラリンピックの起源は1948年のストーク・マンデビル大会(イギリス)ですが、この大会の目的は「大会を公開して行うことで一般の障害者(大会の参加者)に対する認識を変える」ことでした。そして、障害者スポーツの大会が大きく取り扱われることで、興味・関心のない一般の理解が高まり、偏見が緩和されてきたのです。


写真:幸和義肢研究所での打ち合わせの様子

1964年の東京パラリンピック大会では、各国からは社会参加を遂げた上で余暇としてスポーツを行っている方が参加しました。社会復帰の進んでいたイギリスの選手は大会後に銀座に飲みに行ったという話も残っています。しかし、日本では障害者のリハビリとは療養であり、多くの施設が箱根や別府などの温泉地にあり、温泉療養などが行われていた時代で、大会実施には「障害者がスポーツをすると障害がもっと悪くなるのではないか」という批判もありました。しかし、東京パラリンピック大会は当事者だけではなく、多くのリハビリテーション関係者の意識も変えました。そして、東京大会はその後日本の障害者のリハビリテーションの礎となりました。

東京2020を契機とした共生社会の実現に向けて

基本的にパラリンピック大会は参加者に対する一般に理解を高める装置です。黎明期の大会では、仕事をしながらスポーツに取り組む方など、一般的な障害者に近い立場の方が参加をしていました。そのため、パラリンピックに出場する選手を見ることは、一般の生活の中で接する障害者への認識を変えることにつながりました。しかし現在、パラリンピック大会が高度に競技化し、専門的なトレーニングを積み、プロのアスリートとして活動する方が大会に参加するようになりました。これは、パラリンピック大会の発展としてはすばらしいことです。しかし、800万人以上いる障害者の中の約150人のエリートアスリートである障害者だけがパラリンピック大会に参加するようになったことで、大会に出場するアスリートを見ることが一般的な障害者への理解に直結しなくなってきました。


写真:岩手県で実施したセミナーのパネルディスカッションの様子

つまり、パラリンピック大会は、「パラリンピック選手と一般の関係性を改善する装置」としては自動的に機能しますが、「一般の障害者と一般の関係性を改善する装置」として機能させるには更なるアプローチを意図的に行う必要が生じたわけです。あまり一部分だけを抜き出すと問題があるかもしれませんが、2012年に開催された最も成功したといわれているロンドンパラリンピック大会以降、パラリンピックの競技団体への強化費は増加しましたが、一般の障害者の生活環境については酷い悪化が生じたという報告がなされ、実際にイギリスは障害者への著しい人権侵害があったとして国連人権委員会の査察を受けることとなりました。

こういった障害者スポーツの歴史的な変遷を踏まえ、東京2020を契機とした共生社会の実現に向けて、もう一度障害者スポーツの意義を広く知っていただくことが、今回の招聘事業の大きな目的でした。


写真:仙台で実施したセミナーでの講演の様子

今回の事業では、多くの方にご参加いただき、メディアにも多く取り上げていただいたことで、その目的は達成できたのではないかと感じています。これからも共生社会の実現に向けてご支援のほどお願いいたします。

この記事を書いた人

橋本 大佑(はしもと だいすけ)
筑波大学で障害児教育を学んだ後、渡独して現地日系企業(THK株式会社)に勤めながら障害者スポーツを学ぶ。2009年に帰国し、障害者の社会参加を促進するためのスポーツを活用した事業を実施。2016年より現職。国内外で共生社会や障害者スポーツ指導者養成に関わる講習を行う。また共生社会の実現に向けて企業を対象としたセミナーやコンサルタントも行う。
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