一般社団法人 コ・イノベーション研究所

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by 橋本 大佑(はしもと だいすけ)

通常学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果

昨年末に文部科学省から出された報告書を読みました。

これは発達障害(の可能性がある)児童の割合が8.8%と推定されたというニュースで一時期話題になっていたもととなっている報告書です。

結構言いたいこといっぱいあります。

まずこの報告書のタイトル自体が非常に嫌です。個人モデルですよね。学校で生徒に提供される教育の質は教員や環境にも影響されます。

僕個人の思い出の中にも教え方の下手な教員はたくさんいます。僕が通っていた小松高校は小松空港や小松の航空自衛隊基地の側にあり、二重窓になっていましたが、航空機による騒音は酷いものでした。今の聴覚過敏の状態では多分まともに授業は受けられなかったと思います。

このように既存の教育環境の中で困り事を抱える理由は生徒個人にだけ存在するわけではありません。しかし、この調査では、生徒が抱える困難の全てが生徒に起因するように書かれているように感じました。

発達障害児が実態よりもたくさんいることによって利する人がいるという陰謀論めいたことまでつい考えてしまいそうになります。

言いたいこといっぱいありますが、結構驚いたのは下記の記述です。驚くのは3つ目の段落です。

『繰り返しにはなるが、本調査は、発達障害のある児童生徒数の割合や知的発達に遅れがある児童生徒数の割合を推定する調査ではなく、学習面や行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒数の割合を推定している調査である。

増加の理由を特定することは困難であるが、通常の学級の担任を含む教師や保護者の特別支援教育に関する理解が進み、今まで見過ごされてきた困難のある子供たちにより目を向けるようになったことが一つの理由として考えられる。

そのほか、子供たちの生活習慣や取り巻く環境の変化により、普段から1日1時間以上テレビゲームをする児童生徒数の割合が増加傾向にあることや新聞を読んでいる児童生徒数の割合が減少傾向にあることなど言葉や文字に触れる機会が減少していること、インターネットやスマートフォンが身近になったことなど対面での会話が減少傾向にあることや体験活動の減少などの影響も可能性として考えられる。』

文部科学省はその昔、朝御飯を食べる習慣があるこどもは学業成績がいいというトンでもない理論を公表しましたし、オリパラに向けては、スポーツをやっているこどもは学業成績がよいという報告もしました。

どちらも相関関係があるだけで因果関係はありません。つまり、僕の年齢と携帯電話の累計販売台数には相関関係があります、と言うことはできます。これは事実として、僕が年を取るごとに携帯電話はどんどん売れていきますので、二つのことなる数字の間には時間の経過と共に増加するという共通点があります。しかし、この相関関係をもって、僕が生まれたことにより、携帯電話の累計販売台数が増えたとは言えません。これを証明するには因果関係を調べる必要があります。例えばある車いすユーザーに操作スキルを指導したら、日常生活の範囲が広がりました、ということであれば、ある程度の人数を調べれば因果関係はわかると思います。

つまり、相関関係だけでは関連性について断言はできないのです。

しかし、この報告書ではなんの根拠もなく、ゲームをする時間が長かったり、新聞を読む習慣がなかったり、スマホ普及以降、対面でのコミュニケーションが減ったりしたことが、こどもが困難を抱える、もう少し踏み込むと、発達障害的傾向がある原因である可能性があると書いているわけです。

こういう報告書はちゃんと調べたことを元にして確証の高い推論を提唱してほしいです。

発達障害の傾向があるかどうかは置いておいても、約11人に1人が既存の教育環境において何らかの困り事をかなり厳しいレベルで感じているというではあると思うので、そう考えると早急な対応が必要と考えます。

 

外部リンク

通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)について:文部科学省 (mext.go.jp)

この記事を書いた人

橋本 大佑(はしもと だいすけ)
筑波大学で障害児教育を学んだ後、渡独して現地日系企業(THK株式会社)に勤めながら障害者スポーツを学ぶ。2009年に帰国し、障害者の社会参加を促進するためのスポーツを活用した事業を実施。2016年より現職。国内外で共生社会や障害者スポーツ指導者養成に関わる講習を行う。また共生社会の実現に向けて企業を対象としたセミナーやコンサルタントも行う。
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