一般社団法人 コ・イノベーション研究所

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by 橋本 大佑(はしもと だいすけ)

発達障害児は本当に10倍に増えたのか

学校社会が「普通」と考える枠の中で「生きづらさ」や「困難」を抱え、それに苦しむ子が増えており、発達障害の診断を受けていなくても、個人の抱える「生きづらさ」と向き合うことができる教育現場であることが理想であるということは先に断っておきます。

昨年文部科学省の出した報告書を紹介しました。学校現場で困り事を抱える児童の増加を調査結果とともに報告したもので、その理由として発達障害児童が増えているとコメントをしていました。

そのレポートの中では、何のアカデミックな調査根拠なく、新聞を読まなくなったことやゲームをする時間が長くなったことを要因として推察しており、「朝御飯を食べる子どもは学力が高い」「スポーツをする子どもの学力は高い」と公開してきた文部科学省に変化がないことを痛感しました。

近年の発達障害者増加ブームには少なくない識者がその問題を指摘しています。例えば、外国籍の児童が日本の学校に編入し、言葉や観衆がわからず困難を抱えているときに、それらの児童が発達障害とされたりすることを指摘したものもあります。

発達障害とされる外国人の子どもたち(外部リンク)

先日ダイヤモンドオンラインで、この発達障害児増加についての書籍がある小児科医の成田奈緒子さんの記事が公開されました。(外部リンク)

僕個人としてもこの発達障害児増加のブームについては否定的な立場です。

このブームは、「日本人の4人に1人が一生の間にうつ病に掛かる」という話をすることで精神障害者が特別な存在ではないとする論調と似ています。

つまり、発達障害児はみなさんの身近にいる存在で特別ではない存在ですよというキャンペーンでもあると思うのです。

この問題点はたくさんあります。

まず、このキャンペーンでは発達障害に対するスティグマ、つまりネガティブなイメージの払拭は難しいです。

次に、学校や社会の中で困難を抱える原因はパワーバランスの強い多数派に向けて構成される社会にあるという社会モデルの理解に繋がりません。

さらに、「普通」の範囲に入らない子どもの困り事の解消は、障害を横において、まずはその子と向き合うことから始めるべきですが、本来発達障害でない子を発達障害に当てはめて、マニュアル的な対応をすることは本質的な問題(子の抱える困難や生きづらさ)の解決には繋がりません。

教育現場に人的な資源が限られている問題があり、本来あるべき姿よりも一学級あたりの人数が多いことが本質的な問題と思いますが、教育現場や家庭がなにか必要なものを提供できていないことが原因で生じている問題を障害に転嫁しないでほしいです。

今後、発達障害増加ブームに対する論理的な反証が多く出てきてほしいと思います。

この記事を書いた人

橋本 大佑(はしもと だいすけ)
筑波大学で障害児教育を学んだ後、渡独して現地日系企業(THK株式会社)に勤めながら障害者スポーツを学ぶ。2009年に帰国し、障害者の社会参加を促進するためのスポーツを活用した事業を実施。2016年より現職。国内外で共生社会や障害者スポーツ指導者養成に関わる講習を行う。また共生社会の実現に向けて企業を対象としたセミナーやコンサルタントも行う。
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