一般社団法人 コ・イノベーション研究所

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by 橋本 大佑(はしもと だいすけ)

津波標識の意味をやっと理解しました

岩手県の沿岸部にはここ数年、毎年2回くらい訪れています。

そんな沿岸部で目にする標識がこの「過去の津波浸水区間はここまで」と書かれたものです。

これ、何のためにあるのかとずっと疑問に思ってたのですが、今回伝承館に行ったり、地元の人の話を聞くことで意味がやっと理解できました。

古くは平安時代から津波の被害の記録がある沿岸部には「てんでんこ」と言う言葉があります。津波が来たときは各自がてんでんばらばらに「高台に向かって逃げろ」という意味です。

じゃあ高台ってどこ、となった時にこの標識を日常的に目にしていることが意味を持ちます。自然災害は常に想定を超えてくるものではありますが、少なくともまず最初に目指すべき安全な基準としてこの標識がある位置は機能すると思います。

とっさの時に思い出せるようにするには日頃から情報が目に見える位置になければなりません。そこで、これだけ大きな標識が必要になるのかと思います。

万が一の際に一人でも救える命を増やす取り組みですよね。

東日本大震災の時には被災地に住む外国籍の方も多く犠牲になったという報告を読んだことがあります。その理由として「高台に逃げろ」という放送や声掛けの「高台」という意味が分からなかったことがその本には書かれていました。だから、この写真で紹介した標識が英語併記で書かれていることにも教訓と、誰一人取り残さないようにしたいという想いを汲み取ることはできると思います。

さて、この「てんでんこ」ですが各自で逃げるときに【障害者】はどうすればよいでしょうか。障害があることによって避難の手段がなく、津波が来ていることを分かっているにもかかわらず、避難を諦め、命を落とした人のエピソードが多く残っています。

沿岸部の障害者手帳所持者の死亡率は2.5%、障害のない人の死亡率と比較して2.5倍です。

なぜ、障害者は障害があることが原因で多く亡くならなければならなかったのか。それはアクセシビリティの問題です。

障害があることによって使えるモノやサービスが限定されることをアクセシビリティの問題と言います。

例えばビルの2階で被災した場合、震災や火事によってエレベーターは真っ先に止まります。立位歩行者であれば、階段や避難梯子なども使えますが車いすユーザーの場合は使える避難手段がありません。

東日本大震災のときにも、エレベーターが止まったことで帰宅できなかったり、車いすと身体を別々に抱えてもらって何とかおろしてもらったり人もいます。そして帰宅してもマンションのエレベーターが止まっていて車で一夜を過ごしたりした方もいます。

もし2階から降りることができないうちに津波が来てしまったら、そして「てんでんこ」に避難が行われたことで障害者が取り残されてしまったらどうするか、ということへの明確な答えはまだ出されていないように思います。

障害者の死亡率が高かった理由を調査するために障害者団体を含む多くの期間が調査に入りました。

その結果の提言としては「日常的に地域活動に参加すること」が有効という意見が多いように感じています。

つまり、この地域にこんな人が住んでいるということを知っていてもらえば、いざ避難するときに地域の人たちの支援が新しい避難の手段となるという考え方ですね。

実際に国内でも災害時に、この日常的な地域参加が緊急時の命を救った事例を聞いています。

でもこれは「てんでんこ」という考え方とは相容れないように思います。各自で最短ルートで逃げるのではなく、障害者(避難困難者)の支援をして逃げることになるからです。

じゃあ、どうすればいいのか。国が行っている避難困難者に個別避難計画を策定する制度は当事者も含めて認知度も低く、作られた個別避難計画も必ずしも有効なものではない(有事の際に本当に実施可能かどうか疑問が残るという意味です)と聞いています。この制度が、より精度の高い仕組みとして機能するにはまだ時間が必要と思います。

そうすると、現実的な結論としては、障害者自身が普段から緊急時を想定した具体的な計画を、自身の命を守るために立てておくしかないのかなと感じます。これはもちろん理想的な状況ではないでけど。

難しいですね。

この記事を書いた人

橋本 大佑(はしもと だいすけ)
筑波大学で障害児教育を学んだ後、渡独して現地日系企業(THK株式会社)に勤めながら障害者スポーツを学ぶ。2009年に帰国し、障害者の社会参加を促進するためのスポーツを活用した事業を実施。2016年より現職。国内外で共生社会や障害者スポーツ指導者養成に関わる講習を行う。また共生社会の実現に向けて企業を対象としたセミナーやコンサルタントも行う。
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