キャスター上げって時間掛かるんです
指導者講習で『「簡単」という言葉をつかわないように』と伝えます。
キャスター上げの指導でよく見る風景です。キャスター上げができる車いすユーザーは、できていない人の前に行って「キャスター上げができること」を目の前でやってみせて、「ほら、簡単でしょ」「ほら、簡単にできるでしょ、やってみなよ」という指導をよくしています。
この指導の何が間違っているかという理由は山ほどあるのですが、2つ紹介します。
1つ目は、目の前にいる人が「できていない」状態にあるということは、その人にとって今取り組んでいる課題は「簡単ではない」ということです。そのため、簡単と言う言葉を伝えることは、この指導者は自分のことをわかってくれないという信頼感の損失に繋がります。また、簡単なことができていない状況は自信の喪失にも繋がります。
特にキャスター上げは、後方転倒の恐怖感との戦いなので、後ろにいる指導者への信頼感が高まれば習得速度が上がります。
2つ目は、「簡単」と言ってしまうことで、キャスター上げ習得時の成功体験の効果が小さくなってしまいます。
キャスター上げは習得してしまえば、そこから先の上達も早いので、既にできる人にとっては日常的に当たり前にする簡単な動作ではありますが、これから習得する人にとっては恐怖感を乗り越えて身につける憧れのスキルです。
そのため、習得したときの成功体験も大きく、人によっては車いす自体のイメージや障害がある自身へのイメージを根本的に変えることがあります。だからこそ、その習得はより大きな成功体験となるように指導者はプロデュースする必要があります。
この2つの理由から考えても、間違っても「簡単」という言葉は使ってはいけないです。
さて、スモールステップでキャスター上げを教えるのは段階的に習得をしてもらう意味もあるのですが、転倒の恐怖感がある場合はなかなか1回の教室参加では習得が難しい場合があります。
僕が師匠から受け継いでいろいろと手を加えている今の指導法では36ステップで指導をしています。
マットに上がるまで5ステップ
マット上でバランスを取るまで9ステップ
硬い床でバランスを取るまで9ステップ
10cmの段差昇降まで7ステップ
キャスター上げを安定させるまで3ステップ
キャスターを上げたまま坂を下るまで3ステップ
です。
指導を細分化するメリットは、キャスター上げができるかどうかが成功の唯一のポイントだと、習得できなかった人は毎回「達成できなかった」という失望を味わうことになります。スモールステップにしておくと、「今日はこのステップまで進んだ」というように成功のポイントを増やし、何らかの達成感を持って帰ることができます。
今日もつくば車いすスクールでは、参加者の多くが少しずつステップを進めることができました。よかったなと思います。